拍手お礼SS

□ぬいぐるみ探偵
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『たいへんだよ名探偵さん!町で事件が!』

『大丈夫だ!犯人は私がきっと見つけてやるさ!安心したまえ』



「……何やってるんですか」

「あれ、L!休憩?」

「ええ。…それは?」

「ぬいぐるみ!なんと私の手づくりなのだよ!探偵と町人A」

「……で、一人で人形劇ですか。暇な人ですね」

「悪かったわねっ」


Lは暇つぶしに彼女が創ったというそれを見つめる。

2体のうち、『探偵さん』と呼ばれていたぬいぐるみを。


「じゃあLが相手になって。人形対決ね」

「(対決…?)」


彼女はLが興味を持ったことをみとめて、その人形を手にとる。


「じゃあ私が探偵役やるから、Lは町人Aね。はい」

「……」

「『何か町で事件があったそうですね』」

「………」

「『どんな事件があったんですか?私に話してみてください。』」

「……」

「…」

もうLってば何でもいいから早く喋って、と小声で窘められる。

本当にやるのかと半ばうんざりしながらも、Lは町人Aの頭をつまんだ。


「『どんな事でも良いんですか』」

「『もちろんです!』」

「……『恋人が暴れて手がつけられない、といった事でも?』」



…………。



「……『あなたの、恋人?』」

「『はい。突然、逆上した彼女にメインコンピュータの電源を落とされて困っています』」

「……」


そうきたか、と苦い顔をする彼女を無視して、Lは続ける。


「『今もそれの修復に忙しくメンテナンス中です』」

「『それは…大変ですね……』」

「『昨日は特に床の配線が多いから気をつけろと言ったのに、その1分後に足を引っ掛けたんです』」

「……ちょっと…」

「『しかも自分が悪いくせに、そんなところに置いておく方が悪いと責任転嫁までする始末。まったく酷」


「シャラップ町人A!」

「…何ですか」

「……反省してるわよ。ごめんなさい」

「解ればいいんです」


(憎たらしい…!)



それを言うならこっちだって、と私も反撃を開始する。

「『実は私も悩み事があって』」

「探偵はそんなこと町人に聞かせたりしません」

「いいから黙って聞きなさい」

「……(随分と身勝手な探偵だ)」

「『その悩み事というのは、恋人が歯医者を嫌がることです』」

「……」

「『早目に行けばそれだけ早く楽になれるのに、私の恋人は、嫌です行きません、の一点張り。諦めてガリゴリ削られてくればいいのに』」

「…ガリゴリ……」


何か想像したのか、Lは眉をひそめながら頬に手をやった。


「………」

「………」

「……馬鹿馬鹿しい。やめよっか」

「そうですね。」

「せっかくうまく出来た人形を、こんなくだらない言い争いに使うなんて嫌だし」

「…私は貴女とこうして居られるなら、たとえそれが言い争いでも嬉しいですが」

「え?」

「ああ、そろそろメンテナンスも終わる頃ですね」

Lはひょいっ、と椅子から降りると、扉に向かって歩き出す。


「それから」

「…?」

「私は、もう少し鼻が高いと思いますよ」

「!」

言いながら私が握りしめている探偵の人形に指さすと、Lはドアの向こうに消えた。



「………べつにLをつくったわけじゃないもん」






…―私が居ないときは、お前が彼女の相手をしていなさい。


Lは後ろ手に閉めた扉の向こうの、寂しがりやの手の内にある自分の分身に呼び掛けた。


(くれぐれも、他の誰かのところへ行かないように。)





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