旧版権小説

□――失う。
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どうして君はそんなに優しくなれるの。





疑問






雲雀恭弥はとにかく苛立っていた。

溢れ出た殺気に怯えたのか肩に留まっていた鳥がバサバサと音を立てて飛び去った。
しかしそんなことはどうでも良い。
思い浮かんだ笑い顔にもっと苛立ちは膨れ上がる。

自分は今、ボンゴレというマフィアのファミリ―の一人である。
群れることが心底嫌いな自分がどうして『ファミリ―』なんぞやっているのかと言えばただ単に面白そうだったからだ。
つまり興味本意。
やたらと強い赤ん坊がいたし、強そうな奴と戦えそうだったし。
何より彼らのボスである沢田綱吉が一番の理由だろうか。
普段は弱い草食動物のくせに。
ときおり見せる肉食動物のそれのような強い意志と澄んだ瞳に"もっと強くなるだろう"と確信していた。
案の定というか、予想通り彼はここ数年で見違えるほど強くなった。
最近では隙があれば戦ってみたくなるほどだ。

だが、と雲雀は思う。
敵対するマフィアが多くなってきた今、倒れていくファミリーは星の数ほどいる。
なのに沢田綱吉、という人間はどこまでお人よしなのか。
倒れてボスを失った人間達を決して始末しようとはしないのだ。
あくまでボンゴレのボスという立場の人間が、そんな優しいことをしていてどうする。
いつファミリーや自分の命を狙われるか分からないじゃないか。

…別にボンゴレがなくなろうが自分には大して関係ないけれど。
気に入っている人間が、自分の理解を超えた行動をすることに雲雀は苛立ちを覚えるのだ。
いや、そこまでなら何とか我慢もできる。

最悪なのは今回の戦いだ。
僕を苛るかせる戦い。
敵は古くからあったファミリーらしく、ボンゴレにしては手間取っていた。
戦って戦っても決着がつかない。
こちらにも強いものがいるのと同様で、送り込まれてくる人間は一筋縄ではいかない。
流石、古いだけはある。
戦闘能力、判断力、結団力、どれも群を抜いて素晴らしかった。
そんなこんなで悪戦苦闘しているボンゴレ側に思わぬ好機が訪れた。
戦いの最中、あちらのボスの息子を人質として手に入れたのである。
息子というものは次期ボスになるであろう大事な人材であるはず。
このまま脅しを掛ければ全て丸く収まるというのに。

沢田綱吉は断固それを拒否した。
理由を問うと、"卑怯な手は使いたくないんですよ"と笑って返されたのを覚えている。
じゃぁ、どうするんだと再度問うと、"自分が直接行って交渉してくる"とぬかしてくれた。

マフィア、という立場上今更卑怯も何もあるか、と思うのは当然じゃないか。

しかも、だ。
君の意見に賛成じゃない僕が、どうしてそのくだらない交渉とやらに、ついて行かなきゃいけないのかな?
そもそも何で僕なのさ。



雲雀は取り合えず苛立ちと疑問をぶちまけるために、その元凶である人物に会いに行こう、と
愛用のトンファーを撫でた。





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