旧版権小説

□――失う。
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どうして僕はその時気付かなかったのだろう。




直感






「あれ、雲雀さん…どうかしました?」

雲雀はノックもせずにボス専用の部屋の戸を開けた。
そして暢気に数枚の書類を呼んでいる綱吉の方へずんずん、と歩いていった。
もちろん愛用のトンファーは準備万全で待機している。
一方狙われている本人の綱吉は怖いな―、と雲雀を見もせずに笑った。
本当に君って言動と行動が食い違ってるよね。

「思ってもないこと言わないでくれる」

昔の君ならまだしも、平気で僕に護衛をさせるぐらいなんだから、怖いなんて思ってないだろ。

「何か不満でも?」
「うん、多いにね」
「あ―、もしかして護衛の件ですか?」

綱吉は殺気溢れる空気を気にもせず、どこからか初代と彼にしか扱うことのできないグローブを取り出した。
大方彼は雲雀が来ることを予想していたのだろう。

「何で僕なのさ。行きたくないんだけど」
「そうですか」

少しも悪びれる態度が見ない。
もう、ここで殺してしまおうか。
いや、今瀕死にしておいてじわじわいたぶるのもわるくないな。
どちらにせよ、と雲雀がトンファーを強く握った時だった。


「直感ですよ」


彼にしては珍しい静かな声で、沢田綱吉が言った。

「直感?」

超直感のことか。
それは沢田綱吉の強さにとって必要不可欠なものだろう。
今まで雲雀が見てきた中で綱吉の超直感がはずれたことはなかった。

「でもそれと僕と、どんな関係があるの?」

戦意は喪失したよ。
雲雀は静かにトンファーを直す。
しかし疑問はおさまらなかった。
先を促す雲雀を見て綱吉は暫く考えるように押し黙っていたがやがてふわり、と微笑んだ。


「秘密です」


雲雀は体中の血管が切れる音を聞いた気がした。
流石に頭にきて、今度は本気で殴ろうかと思ったが止めた。


「………」


真っ直ぐに自分を見つめる瞳が微かに揺らいだ気がしたから。
押し黙る雲雀に綱吉は何も言わなかった。



結局その後も何度か問いただしたが、沢田綱吉が明確な答えを返すことはなかった。
苛立ちは多少消えたが、雲雀の中で何かすっきりしないものが残っているのも事実だった。








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