夏の奇跡
□やきもち
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それは、栄の誕生日を皆で祝った次の日のことだった。
美羽はいつもの納戸の一角に座り、ムーッとした表情で見ていた。
佳主馬と夏希を。昨日から夏希は健二と付き合う形になったのだが、彼氏を作ったことがなかった夏希はどうしたらいいのか悩んでいたらしい。
そこで、男の子の気持ちを知るべく、さっきから佳主馬にベッタリなのだ。
頭の中では仕方がないと思ってるし、夏希には彼氏がいると分かってはいるのだが、気持ちはついていかない。
美羽はイライラした気持ちを隠すように、納戸から出た。
夏希の声を聞きつつため息をついて、美羽は台所へ向かった。
あらわしが墜落したことで家の半分が荒れたが、台所は無事だった。
美羽は台所で一杯の水を飲むと、そのまま庭に出た。
荒れていた庭は、今日の朝から万助達が片付けたおかげで大分綺麗になっていた。
何かを打つ音がして目を向ければ、温泉を作っていた。
万里子達が折角温泉が出たなら、露天風呂にしようと言い出したのだ。
ただその場でじっと見ていると、足元にフワッとした感触。
目線を下げれば、そこには舌を出して尻尾を振るハヤテがいた。
しゃがんで撫でてやれば、ハヤテはもっと撫でてと言うようにゴロンと仰向けに寝転んだ。
「あれ、美羽ちゃん?」
『健二さん』
「何してるの?」
タオルを片手に持った健二が、美羽に近付いて尋ねた。
どうやら、今まで万助達の手伝いをしていたらしい。
顔や服が汚れている。
『暇だから、ハヤテと遊んでたんです』
最近、あんまり遊んであげられなかったから、と美羽は言ってハヤテのお腹を撫でた。
「あれ、そういえば佳主馬君とは一緒じゃないの?」
健二の何気ないその言葉に、美羽の手がピタリと止まった。
どこかムッとした表情をする美羽に、健二は首を傾げる。
「美羽ちゃん?」
『佳主馬なら夏姉といますよ』
少し口を尖らせて、美羽はハヤテのお腹を撫でた。
「美羽ちゃん」
『何ですか?』
「……やきもち?」
『!』
summer