夏の奇跡
□07.手紙
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「遊びだって?
人間を滅ぼすことが遊びだって?
そんな…
嘘だろ…」
理一の言葉に、佳主馬は絶望に立たされた。
OZ内だけならまだ良い。
まさか、こんなことにまで発展するなんて…
「奴にとって、これはただのゲームだ。
何らかの思想や恨みでやってることじゃない。
米軍内でも、かなり混乱しているようだ。
実証実験のつもりが、こんな事態を招くとは想定していなかったんだろう。
秒速7キロで落下する直径1メートルの再突入対は、隕石や弾道ミサイルそのものだ。
仮に原子炉を突き破り、核物質が広範囲に撒き散らされた場合、被害は検討もつかない」
理一の言葉に、美羽はパソコンの画面を見つつ真っ青になっていた。
"キングカズマ、あの怪物を倒して"と書かれた文字。
中には"クイーンミウ、助けて"とも書かれている。
一体、自分に何が出来るだろう。
まだたったの13歳の小娘が、こんな奴相手に…
「じゃあ、どうすれば…」
「今まで奪われたOZアカウントは全体の38%。4億1200。
その中から、GPS管制を司るアカウントを取り戻すこと。
2時間以内に」
「4億人分のOZアカウントなんて取り戻せるわけないだろ!」
佳主馬の焦った声に、美羽は拳を握った。
この短時間で、どうやって4億人分のOZアカウントを取り戻せと言うのだ。
仮にミウとキング・カズマで戦ったとしても、勝ち目はない。
あんな大人数相手に、戦えない。
だが、OZアカウントを取り戻さなければ、あらわしは本当にどこかに墜落するだろう。
そうなれば、一体何人の人が死ぬだろう。
一体どれくらいの国が、消えてしまうだろう…
「しかし、他に方法が…」
「佳主馬?」
「はっ」
ハッとして振り返れば、そこには聖美がいた。
そこにはいつの間にか、全員が集まっていた。
「何が起こっているの?
それ、ゲームの中のことでしょ?
ねっ、そうよね?」
佳主馬は聖美を見つめ返し、そして、彼女の大きくなったお腹に視線を落とした。
自分を産み育ててくれる母、そして、これから生まれてくる新しい家族。
佳主馬は自分のすぐ近くで座り込み、顔を青くしたままパソコンの画面を見つめる美羽を見つめた。
守ると誓った、大切な、最愛の――………!!
「っ!」
佳主馬は弾かれたようにキーボードを手にすると、入力を始めた。
キング・カズマが力を振り絞り、壁から体を抜き取る。
ピンと立った耳は折れ、服も体もボロボロで。
それでもキング・カズマはラブマシーンに突っ込んでいく。
《無茶だキング、敵いっこない!》
「うるさい!」
佐久間の制止を聞かず、キング・カズマはラブマシーンに向かった。
ラブマシーンの指先が崩れ、そこから大量のアバター達が、一斉にキング・カズマに向かう。
酷いざわめきとともに、画面が真っ黒に染まった。
『っ!』
美羽は咄嗟に左手で口元を押さえた。
画面が晴れた時、そこにはピクリとも動かないキング・カズマの姿があった。
「う、うう…!」
どんなコマンドを入力しても、キング・カズマはただそこに漂うだけ。
「ああ、ああっ…」
動けとどんなに念じても、キング・カズマは動いてはくれない。
「ああっ、ああ…!!」
バンッと、佳主馬はキーボードを叩き付けた。
ざわめきとともに、アバター達がラブマシーンの元へと戻っていく。
その全てが戻った時、ラブマシーンの背後に輝く円盤が出現した。
キング・カズマの姿が球体に捕らえられ、そして、ラブマシーンに食われてしまった。
声をあげたラブマシーンの頭には、うさぎの耳が生えていた…
「う、うぅ…」
ポタンと畳に落ちた滴を見て、美羽がハッとした。
佳主馬は悔しげに拳を握り、唇を噛み締めて、涙を溢していた。
「おばあちゃん、ごめん…
母さんを…
妹を…
美羽を…
守れなかった…」
『か、ずま…』
佳主馬の言葉に、美羽は唇を噛み締めた。
おばあちゃん、私はおばあちゃんみたいになれないよ…
私は、何一つ守れない…
「あと何か出来るとすれば…」
「侘助だけだ。
だが…」
「帰ってくるわけ…ないか」
美羽は俯いた。
侘助だったら、確かに何とか出来たかもしれない。
だが、あんな別れかたをしたら、きっと戻ってきてはくれないだろう。
summer