夏の奇跡

□05.合戦の合図
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『佳主馬ー!』


一人拳法の練習をする佳主馬に駆け寄れば、佳主馬は美羽の服が変わったことに首を傾げた。


「なんで着替えたの?」

『濡れたから、かな』

「なんで?」

『話すと長くなるよ、うん』


美羽の言葉に首を傾げつつ、佳主馬は再び構えた。
美羽は小さく微笑むと、少し構える。


『相手役、だよね。
本気で良いんだよね、佳主馬?』


美羽が聞けば、佳主馬が頷く。
それと同時に、佳主馬と美羽の組み手が始まった。
佳主馬が打つ拳を美羽が避ける。
それと同時に蹴りを出せば、佳主馬それを横に飛んで避けた。
それを見つつ、聖美が佳主馬に声をかける。


「佳主馬、着替え」

「あとで」


短く返すと、佳主馬が美羽に蹴りを放った。
美羽がそれをしゃがんで避ける。

そんな二人を見ながら、健二はぽつりと呟いた。


「佳主馬君、キング・カズマみたいだ。
美羽ちゃんも、クイーン・ミウみたい…」


そんな健二の呟きに、聖美が苦笑した。


「ああ見えて、昔は酷い虐められっ子でね。
名古屋から新潟の万助じいちゃんに、OZ経由で少林寺拳法を教わったのよ」

「それで師匠なんだ」


佳主馬がずっと万助のことを「師匠」と呼んでいたのを思い出し、健二が呟いた。


「美羽は、ほら。
あの子、栄おばあちゃんの跡継ぎでしょ?
だから、栄おばあちゃんが美羽に色々と叩き込んだのよ。
礼儀作法や茶道、生け花に日本舞踊に武術や剣術。
だから時々、こうして佳主馬と組み手するのよね」


美羽がよく使うのは合気道だから、良い練習になるみたい、と聖美が笑った。

なるほど、美羽から最初に感じたあの気品は、栄に仕込まれたものだったのか。

健二は暫く、その場で組み手をする二人を見ていた。











部屋に戻ってきた美羽と佳主馬は、パソコンと向き合っていた。
健二と万助、太助はスーパーコンピューターを冷却するために船から氷を出してきていた。


《夏希先輩んちって何なの?》

「普通の家だよ」


佐久間の疑問に、佳主馬がさらりと返した。2
00テラフロップスのスーパーコンピューターに、100ギガのミリ波回線なんて、どう考えても普通ではないて思う。
すると、健二が会話に割り込んだ。


「果たし状を出したいんだ」

《果たし状?》

「差出人はキング・カズマ。
今度のキング・カズマは今までとは違う」

《なんでお前がそんなこと言うの?》


佐久間がそう聞けば、佳主馬が画面に顔を出した。


「僕がキング・カズマだから」


それに佐久間が固まった。


「え、ガチで?
え、じゃあちょっと待って!
もしかして、クイーン・ミウって…」

『あ、それ私だよ、佐久間さん』


美羽が続けて顔を出した。

OZをしている者なら誰でも知ってるキング・カズマとクイーン・ミウ。
その本人を目の当たりにし、佐久間は固まった。
佳主馬はそんな佐久間を無視して、万助と最後の練習。
美羽は佐久間を何とか叩き起こして、プログラムの説明と確認をした。












《……ってわけ。
どうかな、美羽ちゃん》

『あはは、本当に大変な作業ですね』


説明を聞いた美羽が苦笑を溢した。
佐久間から聞いた説明では、確かにこの作業は大変である。
しかも、ラブマシーンのスピードが早いため、より早くて正確な技術を要する。


《無理そう?》

『まさか。
やりますよ。
佐久間さんだって大変なんですし、頑張ります。
私のミスでこの作戦を台無しにするわけにはいきませんし』


佳主馬も、頑張ってるから。

そう続ければ、佐久間が少し言いにくそうに美羽を見た。


《あのさ、美羽ちゃんと佳主馬君って、あの…》

『ああ。
私、佳主馬の許嫁なんです』


そうあっさりと答えれば、また佐久間が固まった。
というのは、言うまでもないだろう。











《あと一分だ》


佐久間の声に、全員の顔が引き締まった。
理一がパソコンから目を離し、佳主馬を見る。
続けて太助、健二、万助、美羽が頷く。


「準備完了」

「こっちもいける」

「今度は勝つよ」

「気合い入れろ」

『全力を尽くしましょう』


全員の言葉を受けて、佳主馬が中央のパソコンの前に腰を下ろした。


「しまっていこう」


戦の合図が、今響き渡る――……!!







summer
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