夏の奇跡

□03.自分に出来ること
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「何これ、酷い書き込みだなぁ」


そこには、キング・カズマに対する酷いコメントが書いてあった。

たった一度の敗北が、こんな風に佳主馬を追い込んでしまうなんて…
あの時、ちゃんと祐平と真悟を止められていたら、佳主馬は負けなかったのに…

美羽はパソコンの画面を見て俯くと、拳を握り締めた。
そんな美羽を見て、佳主馬が美羽の手に自分の手を重ねる。
美羽がはっとして佳主馬を見れば、佳主馬は美羽に少しだけ微笑んだ。


「僕は大丈夫だよ、美羽」


佳主馬の言葉に思わず泣きそうになって、美羽は佳主馬に抱きついた。
佳主馬が美羽を宥めるように、美羽の背中を叩いてやる。
それを見て頬を赤くしつつ、健二は佳主馬にフォローを入れようと口を開いた。


「気にすることないよ、ゲームなんだし」

「ゲームじゃない。
スポーツ」


健二の言葉を否定する佳主馬。
佳主馬は美羽を抱き締めたまま、健二を見た。


「戦って勝つのが好きなんだ。
別にゲームは好きじゃない」

「そうだったんだ」

「でも、奴は違う。
奴はゲームが好きなんだ。
僕にはわかる」


そうじゃなきゃ、あんな戦い方はしない。
ずっと戦ってきた佳主馬だからこそ、それがわかる。


「ということは、奴の目的は…」


健二がそう言った瞬間、足音が響き、翔太や理香に続いて親戚のほぼ全員が納戸に詰め寄り、雪崩と化した。
それに目を見開けば、間から出てきた夏希が苦笑していた。


「えへへ、バレちゃった」









『健二さん、大丈夫かな…?』


美羽は連れていかれた健二を思い出して、眉を下げた。
どうやら、東大生で旧家の出で、留学経験あり、というのは嘘だったらしい。
栄を元気付けたくてついた嘘だったらしいが。

翔太は警察だから、このOZの混乱が健二であると思ったのだろう。
きっと、ファックスで健二の写真でもきたのだろうし。


「すぐ戻ってくるんじゃない?」

『え?』

「ほら、これ」


佳主馬に言われて見れば、そこには渋滞情報が載っていた。
翔太が通る道も渋滞であると載っている。
しかも60qだ。
きっと、理一が迎えに行ってくれるだろう。

美羽は少しホッとしたように息を吐いた。
佳主馬はそんな美羽を見て拗ねたようにパソコンを見た。


「…僕への心配はないの?」


佳主馬の言葉にキョトンとした美羽だったが、意味を理解すると逆に頬を膨らませた。


『心配しないわけないでしょ!?
私がちゃんとしてれば、佳主馬は負けなかったもん…
あんな書き込みまでされて…』


涙を溜める美羽に、佳主馬は「しまった」と思った。

つい嫉妬心から言ってしまったが、美羽が自分を心配してないわけがないのだ。
美羽は、虐められていたころの自分を知っているから。

佳主馬は美羽を抱き締めた。


「ごめん、美羽。
泣かせるつもりじゃなかったんだ。
ごめん…」

『違っ…!
っ、ごめんなさい、佳主馬…
ごめんなさい…』


自分を責めてしまう美羽に、佳主馬は抱き締める力を強めた。


「美羽は謝る必要ないよ」

『だ、だって…』

「ありがとう」

『え………』


佳主馬からのお礼の言葉に、美羽は佳主馬を見た。
佳主馬は美羽の頭を撫でると、優しげに微笑んだ。


「守ってくれて、ありがとう」

『っ、』


そう言われて、美羽はギュウッと佳主馬に抱きついた。
佳主馬は数回美羽の背中を叩くと、美羽を離した。
美羽の目から零れそうな涙を指で拭き、美羽の頬に手を添える。
視線が絡み、自然と佳主馬と美羽の瞳が閉じられた。
どちらかとも言わず、ただ二人の距離が縮む。

その瞬間、慌ただしく健二、夏希、翔太が入ってきた。
美羽と佳主馬はバッと視線を外す。
佳主馬はパソコンに向き直り、美羽は健二を見た。


『あ、け、健二さんお帰りなさい!//』

「ただいま、美羽ちゃん。
って、何か顔紅くない?」

『ふぇ!?
え、あ、き、きき気のせいですよ!//』







summer
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