夏の奇跡

□02.偽ケンジ登場
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次の日、美羽はいつもの納戸に佳主馬といた。
佳主馬のパソコンに映るOZのニュースを見て、目を見開いた。
そこには健二が映っていたのだ。


『え、健二さん?』


まさか、OZのこの大混乱を招いているのが健二だと良いのだろうか。
あんな人の良さそうな人が?


「いた!」


その声に振り返れば、焦った様子の健二。
画面に映る写真と同じ顔。


「これ、お兄さんがやったの?」


佳主馬はそう言いながらヘッドフォンを取り、美羽を守るように左手で美羽の肩を抱いた。
だが、健二はそんな佳主馬と美羽を気にする余裕はなく、佳主馬に近寄った。


「あのさ、パソコン借りて良い?」

「言い方がダメ。
もっと、取引先に言うみたいに言って」

『か、佳主馬…(汗)』


こんな時にそんな意地悪なこと言わなくても…
なんて思ったが、健二は頭を下げた。
プライドはないのか、プライドは。
まぁ、こんなことになったら仕方がないが。

深々と頭を下げた健二の方に、佳主馬はスライドさせた。
その途端、「ありがとう」と言って健二はパソコンに飛び付いた。
相当焦っているようだ。

急いでパソコンに自分のパスワードを入力するが、電子音が鳴る。
再度やっても同じ結果に、健二は眉を下げた。


「なんで?」

「何焦ってんの」

「アカウント、乗っ取られたみたいなんだ」

「何だ、成り済ましか」

『佳主馬…(汗)』


そんなつまんない、みたいなこと言わないでよ、と美羽は苦笑した。
いや、心配はしてくれていたのはわかっているのだけれど。
じゃなかったらわざわざ守ってくれたりしないだろう。

健二はパソコンの画面を見つめて肩を落とした。


「どうしよう…」

「サポートセンターに連絡」

「!それだ!」


ハッとした健二はポケットからケータイを取り出して、サポートセンターへの電話番号を押した。
が、ケータイから聞こえたのは「あなたのOZアカウントを認証できないため、携帯電話回線に接続できません」というアナウンスの声だけ。


「かっ、かからない、かからないよ!」

『健二さん、ちょっと落ち着きましょう?』


真っ青になって焦る健二に美羽が言った。


「小磯君?」

「うおぉおお!」


突然声をかけられて驚いた健二は、咄嗟にケータイを投げていた。
健二の反応に驚いた聖美の手には電話。


「東京から。
佐久間さんって人」


健二は慌てた様子で電話を受け取った。
相手は同じ物理部の佐久間だった。


《まさか、お前の仕業じゃないよな》

「違う!」

《だよな。
動機も度胸もないよな》

「分かってるなら何とかしてよ!」


焦って言う健二に返ってきたのは、「無理」という二文字だった。
実は今、パスワードが書き換えられていて、管理棟に入れない状況なのだ。


「OZは世界一安全じゃなかったの?」

《昨日、変なメールがOZ中にばらまかれた》

「変なメール?」

『あ、それって、昨日の長い数字列のこと?』


昨日の夜、自分のケータイにもメールが来ていた。
とても長い数字の列。
返信はしなかったが、あれのことだろうか。
すると、佐久間が「それだ」と言った。


《OZのセキュリティは、2056桁の暗号で守られてる。
そう簡単に解ける暗号じゃないんだ。
それを、誰かが一晩で解いちまった》

「2056桁…
昨日のメール…
最初の数字は?」

《8》


健二は昨日の夜、自分に届いた問題を思い出した。
確かあの数字の最初の文字は、8。
しかも、その解いた答え送信したし、あの答えの内容は…

健二は頭を抱えた。







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