夏の奇跡

□01.大家族
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青空が広がり、鳥が羽ばたく。

ここ、陣内家の人間である陣内美羽は、朝から嬉しそうに屋敷とも呼べる広い家を掃除していた。
ウキウキとした美羽の態度には、祖母にあたる栄も嬉しそうだ。


「美羽」

『はぁーい。
なぁに、母さん?』


美羽は万理子の元に駆け、首を傾げた。

両親を早くに亡くした美羽を育ててくれたのが、陣内家長女の万理子だった。
美羽にとっては、本当のお母さんと同じである。


「おばあちゃんから、美羽にって」


そう言われて渡されたのは着物だった。
青色に水色の蝶が描かれた着物。


『うわぁ、綺麗…!』


陣内家を後々は継ぐ者とされている美羽は、着物をよく着る。
その殆どが栄から貰ったものだった。


「佳主馬が来るなら、来ておやりなさい。
喜ぶわよ」


そう言われれば、美羽は真っ赤になった。
佳主馬、とは栄の子供、次男の陣内万助の次女聖美の息子である。
美羽は真っ赤になりながら受け取った着物を見た。


『……佳主馬、喜んでくれるかな…』


真っ赤になって呟いた美羽に、万理子は微笑んだ。
本当、いい娘に育ったものだ。
育て親としては嬉しい限りである。


「ほら、着せてあげるわ」


万理子の言葉に頷く美羽。
それを遠くから栄が微笑ましそうに見ていた。









「久しぶりだな…」


佳主馬は大きな屋敷を見上げて呟いた。

ここ、陣内本家に来るのは本当に久しぶりである。
昨日メールを交わした少女を思いだし、佳主馬は少しだけ微笑んだ。


「あら佳主馬。
いらっしゃい、よく来たわね」


出てきた万理子に、佳主馬は頭を下げた。
万理子は満足そうに笑うと、中に戻っていった。
今はお昼前。
食事の準備が忙しいのだろう。
実際、佳主馬の母親である聖美はさっさと中に入っていってしまった。
これからすぐに昼食の準備に入るだろう。

一人残された佳主馬はもう一度屋敷を見上げて、ふぅっと息をはいた。


『佳主馬』


呼ばれて見れば、そこにはずっと会いたかった少女の姿。


『いらっしゃい、佳主馬』


そうニッコリと微笑まれて、佳主馬は自分の頬が緩んだのを感じた。
佳主馬はただ、ギュウッと少女を抱き締める。


「会いたかった、美羽」

『私も会いたかったよ』


佳主馬の言葉に美羽も返し、二人は離れた。
でも、手は繋いだまま。


「その着物、似合ってる」

『あ、ありがとう…//
あのね、栄おばあちゃんがくれたんだよ』


それに心の中で栄に感謝した佳主馬。
来てすぐにこんな可愛い美羽が見れたなら、ここまでの長い道のりも我慢出来るというものだ。


「あ、美羽」

『!
ふぁい!//』


万理子に呼ばれてハッとした美羽。
万理子は手を繋いだ美羽と佳主馬を見て微笑むと、美羽に爆弾を落としてくれた。


「佳主馬の泊まる部屋は美羽の部屋にしてるからね」









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