星の道しるべ

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あかりはため息をつくと、その場に腰を下ろし、体育座りした。


「あかり、あの…」

『…ごめん、うさぎ』

「え?」


うさぎがあかりに声をかけると、あかりは膝に額を当て、俯いたような状態でそう呟いた。
あかりの謝罪の言葉に、うさぎは首を傾げた。


『ごめん。
ついカッとなって、うさぎ巻き込んじゃった…
星野達も、嫌な思いさせてごめんね』


うさぎはあかりの言葉に目を見開き、そしてあかりを抱き締めた。


「違うよ、あかり。
あたし、あかりにありがとうって言いたかったんだよ」


嬉しかった。
自分のために、あんなに怒ってくれて。
自分も怒ったけど、きっと自分じゃあの人には勝てなかったから。


「ありがとう、あかり」


うさぎがそう言って微笑むと、あかりは顔を上げた。
ちょっと潤んだ瞳を見て、少しだけ苦笑した。
すると、夜天が「ばっかじゃないの」と言った。


「あかりさ、少しは自分の心配しなよね。
僕達のこと考えてくれるのは嬉しいけど、それであかりが嫌な目に合ったら僕達だって嫌なんだよ?」


「そうですよ。
あかりは周りの人ばっかり見すぎです。
周り人を大切に想うのは良いですが、自分のことも大切にしなきゃダメですよ」


夜天と大気に言われ、あかりは少し目を伏せた。
そんなあかりを見て大気があかりの頭を数回撫でる。
そう言えば昔こうしてマリナの頭を撫でてあげたことがあったな、と大気が思い出していた。


「あかり」


星野に呼ばれて、あかりは星野を見た。
うさぎと大気が少しあかりから離れる。
星野はあかりの目の前まで来ると、あかりと視線を合わせるかのようにしゃがんだ。


「まず、俺達のために怒ってくれてありがとな。
嬉しかったぜ」


本当に、あの女達からは自分達を一人の人間として見ているとは感じなかったから。
自分勝手な理由で頭に来たし、あかりが怒らなかったら自分が怒っていただろう。


「でもな、あかりは自分が悪く言うのは構わないって言ったけど、俺達はそれが嫌なんだよ。
俺達にとっても、あかりはすっげー大事な存在だからな」


星野がそう言うと、あかりはシュンと落ち込んでしまった。
そんな姿に苦笑しつつ、星野はあかりの頭を撫でた。


「怒ってくれて、本当にありがとな」


優しいあかりだから、自分達が悪く言われたりするのが許せないのだ。
優しいところは昔から変わらない。


「よし!
あかりとの交際を認めてもらうためにも、優勝するぞお団子!」

「あたし、まだあんたとあかりの交際、認めてないけど?」


うさぎの言葉に、星野は顔をひきつらせた。

そうだった。
うさぎはうさぎで大好きなあかりを取られたくないんだった…

だが、うさぎはいつもの笑顔を浮かべた。


「でも、あかりを悪く言われるのはあたしも嫌だし。
今回は協力してあげるわよ、星野」


あかりが関係するなら頑張るうさぎ。
星野はうさぎの言葉に笑みを浮かべ、再度バットを手にした。


「よし、やるぞお団子―!」


星野とうさぎの姿を見て、あかりは小さく微笑んだ。











球技大会当日。
あの後も星野と猛特訓したうさぎ。
そんなうさぎを、あかりは見ていた。
星野は運動神経抜群だから、ソフトボールでも大活躍。
ただ、豪速球を投げる星野と並ぶ玉を投げている人が相手のチームにもいるので、どちらも点を採れないまま、試合は進んでいた。
うさぎは星野の猛特訓を受けたにも関わらず、まだ一度もボールを取れていない。

試合途中、ポツポツと雨が降り出し、試合は一時休止となった。
皆、各自で雨宿りの場所を探していた。


『うさぎ、お疲れ様』


うさぎに寄り、あかりはタオルをうさぎに渡した。
星野がそれを見て拗ねたような表情をしたので、あかりはクスクスと笑って星野にもタオルを渡した。


「ありがとう、あかり」


明らかに元気がないうさぎを見て、あかりは苦笑した。
少しだけ星野から離れて、あかりはうさぎの頭を撫でた。


『どうしたの、うさぎ』


まぁ予想はつくけど、敢えて言わない。
うさぎがあかりを必要だと感じたなら話してくれると、あかりは知っているから。


「あのね…
星野にあんなに練習に付き合ってもらったのに、あたし、全然ボール捕れなくてさ。
あかりのためにも頑張ろうって思ったけど、ダメだなって…」


やっぱり。
優しいうさぎだから、絶対気にしていると思った。

あかりは優しく微笑んで、うさぎを見た。


『うさぎ、取れなくなって良いんだよ?』

「え?」

『うさぎが頑張ってるのは、見てたあたしにもちゃんと伝わったよ。
確かにボールは取れてなかったかもしれない。
でも、うさぎは諦めなかった。
星野に練習付き合ってもらわなかったら、うさぎ、きっと途中で諦めてたんじゃない?』


ソフトボールは苦手だと、うさぎは言っていたし。
きっと、今までのうさぎだったら途中で辛くなって、諦めてた。
あたしじゃ無理だ、と。


『うさぎが頑張る理由、ちゃんとあるでしょ?』

「うん。
忙しいのに、あたしに付き合ってくれたんだもん。
あたしのために怒ってくれたんだもん。
星野のために、あかりのために、この試合に勝ちたい…!」


うさぎの言葉に、あかりは満足そうに微笑んだ。


『大丈夫。
うさぎはうさぎなりに頑張ってる。
諦めてるわけじゃない。
うさぎは、ダメなんかじゃないよ』


頑張ること。
諦めないこと。
スポーツの世界で一番大切なのは、技術でも才能でもなくて、頑張る心と、諦めない心。
それをちゃんと持っているうさぎが、ダメな訳がない。


『星野が怒らないのだって、うさぎが頑張ってるのを知ってるからだよ。
勿論、あたしも同じ』


頑張ってるのを知ってるから、応援はする。
でも、怒るなんて有り得ない。


『あたし、うさぎがあたしのために頑張ってくれるのが凄く嬉しいよ。
自信持ちな、うさぎ。
うさぎなら大丈夫だよ』


うさぎの頑張りを、あたしと星野はちゃんと知ってるんだから。
自信持って、胸を張りなさい。

そう言うと、うさぎが「あかり大好き、ありがとう」と抱き付いてきた。
それに笑みを浮かべ、あかりはうさぎの背中を優しく撫でた。
するとちびちびがトイレに行きたいらしく、うさぎの髪の毛を引っ張ったので、うさぎはちびちびをトイレに連れていった。


「お団子のこと、本当に大事なんだな」


うさぎを見送るあかりを見て、星野が呟いた。
うさぎを見るあかりの目が優しいことに、星野は気付いていたのだ。
あかりは星野を見ると、ふわりと微笑んだ。


『勿論。
うさぎは、あたしの大切な人だもん』


うさぎがいるから、あかりだって頑張れた。
辛いことや苦しいこと、悲しいことは今までだって沢山あった。
それを乗り越えて来れたのは、うさぎがいてくれたから。
喜びや悲しみ、全部うさぎと分けあって頑張ってきたのだ。

すると、突然あかりがピクンと反応した。
星野達も気付き、ハッとする。

新しい、星の誕生…


『!(この感じ…!)』


星の輝きと共に、微かに感じる敵の気配。
あかりは駆け出していた。
星野の呼ぶ声が聞こえたけど、それどころじゃない。
あかりはブローチを取りだし、人気のない場所で変身して走るスピードを上げた。











『お待ちなさい!』

「何者ですの!?」

『幸福と生命の星、太陽を守護に持つ光の戦士セーラーサン。
どんなに深い暗闇も、聖なる光で明るく照らして見せましょう!』


サンはセーラームーンを守るように立つと、セイレーンを睨み付けた。


『今すぐこの場を去りなさい、セイレーン。
この子に手を出すなら、あたしが黙ってないわ』


ロッドを取り出し、サンは構えた。
セイレーンは一瞬怯んだが、キッとサンを睨んだ。


「真のスターシードを目の前に、引き下がれません!」


その言葉にセーラームーンを見れば、セーラームーンは申し訳なさそうにサンを見た。
どうやら、本当にバレてしまったようだ。
と、そこにスターライツも集まった。
あかりが駆けていったのを心配して来たのだろう。


『もう一度言うわ。
去りなさい、セイレーン』

「っ、仕方がありませんわ」


この人数では勝てないと分かったセイレーンは、電話ボックスへ入り、その場を逃げた。
サンはため息をつくと、セーラームーンを見た。


『セーラームーン、後で少し話をしよう?』

「うん、分かった」


サンはセイレーンが去った場所を軽く睨むと、その場を後にした。

その後、再開されたソフトボールでうさぎ達のチームは優勝することができた。







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