星の道しるべ
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『え、お泊まり?』
あかりはうさぎを振り返って首を傾げた。
「そう。
今日家族みーんないないの。
最近物騒だし、寂しいから、あかり泊まりに来てよ〜」
『そ、それは良いけど…
あたし、今日行くの遅くなるよ?』
「え、何で?」
『実は…』
あかりは昨日のことを説明した。
昨日、夜にあかりの家に電話がかかってきた。
電話をかけてきた相手は、オーケストラにも出ているピアニスト、相田加奈子さん。
以前からあかりを気に入っていた彼女は、あかりの出るコンクールには毎回見に来ているし、わざわざあかりに楽譜を送ってくれたりと、あかりのファンの一人だった。
気さくで優しい相田のことはあかりも尊敬している。
そんな相田から明日のラジオ番組に、代わりに出てほしいとお願いされたのだ。
急用でどうしても抜けられないのだが、ラジオも外せなかった。
そこで今大注目を浴びてる天才ピアニストであるあかりにお願いしたのだ。
あかりは天才ピアニストと騒がれている割りに、テレビやラジオ、取材の依頼を断り続けていたので、ラジオ曲側もあかりなら代役としてたててもいいとのこと。
尊敬している相田にそこまで言われては断ることも出来ず、あかりは今日のラジオ番組に出演することを了承したのだった。
『ってわけで、放課後はラジオの収録があるのよ。
その中で一曲演奏してくれって頼まれてるし、生放送だから失敗出来ないでしょ?
早目に行って、練習しないと…』
行けない訳じゃないから、多少遅くなってもいいなら行くよ、とあかりが言えば「それでいい!」とうさぎが言った。
「にしても、あかり凄いね。
ラジオの生放送なんて…」
『相田さんに頼まれたから、仕方なくよ。
普段なら断ってるわ』
折角の高校生生活を、ラジオやテレビで潰したくはない。
最近ただでさえ依頼が増えてるってのに。
この前なんか楽団に入らないかって依頼が何件か来てたし、留学しないかって言う誘いまで来ていた。
「何、あかりラジオ出んの?」
『星野』
突然抱き付かれて、あかりは驚きながら振り返った。
もう、人前ではしないでって言ったのに。
うさぎが慌ててあかりと星野を剥がす。
『まぁ、ちょっと色々あってね。
今日のラジオの生放送、知り合いの代わりに出るのよ』
「はは、お前も大変だよな」
この前のデートの時といい、あかりも苦労するな、と星野は思っていた。
自分達スリーライツとはまた違った意味で世間を騒がせているのだから。
『うさぎ、あたし何か持っていってあげるから、あんまり家の中散らかさないでよ?』
最後泣くはめになるのは自分なんだからね、とあかりが言うとうさぎは「わかってるよぉー」と言った。
本当かよ。
うさぎのわかってるは信用できない。
「安心しろってあかり。
俺も行ってやるからよ」
「え!?」
『あ、本当?
良かった。
うさぎ一人だと心配だから』
「いやいや、あかり!?」
星野は胸を張った。
「任せろって」
『良かったね、うさぎ。
これで泥棒の心配はないね』
「え、ちょ、あかり!?」
『じゃ、あたし行くね。
スタジオの方からお迎え来てるみたいだから。
星野、うさぎのことよろしくね』
あかりはうさぎに笑顔を向けると、時計を確認して慌てて出ていった。
うさぎはそのあかりの姿に肩を落とし、隣にいる星野を見てため息をついた。
「あかりの前だからって、良いカッコしすぎなんじゃないの?」
「あ、バレた?」
うさぎの言葉に、星野は笑った。
バレバレだっての。
あかりは全然気付いてなかったけど。
「星野にあかりは渡さないもん」
そう言って頬を膨らませたうさぎ。
大事な幼馴染みを、そう簡単に渡してやるもんか!
『お疲れ様でした』
ラジオの収録が終わり、あかりはスタッフの方々に挨拶をする。
あーもう肩が凝る。
これだから生放送は嫌なんだ。
失敗出来ないし。
「あ、あかりちゃんお疲れ様。
いやー、良かったよ」
『ありがとうございます』
ディレクターに言われてあかりは笑顔を浮かべた。
「あの天才ピアニストのあかりちゃんが出演してくれるなんて思わなかったから、嬉しいなぁ。
また頼むよ」
『気が向いたらお受けしますよ』
そう言えば、ディレクターはキョトンとした後に豪快に笑った。
「はっはっは。
あかりちゃんには敵わないなぁー」
うん、他の所があかりの出演を取り合っているのがわかる気がする。
まぁ、あかりはすべて断ってしまうんだけど。
自分だって今回みたいなことがない限り、あかりに出演してもらうなんて無理だっただろう。
これは相田さんに感謝しないとな、なんてディレクターは思った。
「わざわざありがとう、あかりちゃん。
どうだい、今から食事でも?」
『ふふ。
こんな小娘誘っても良いことなんてありませんよ。
それに、先約があるもので』
「お?
彼氏かなー?」
『幼馴染みの女の子の家に行くだけですよ』
クスクスと笑って軽く受け流すあかり。
うん、場馴れしてる。
そこら辺の芸能人なんかよりもずっと場馴れしてる。
そう思ってディレクターは苦笑した。
『では、先に失礼します』
「ああ。
お疲れ様」
ペコリと頭を下げて、あかりはスタジオを後にした。
時計を確認して背伸びする。
『ふぅ。
時間通りには終わったわね』
あかりは少し急ぎ足でうさぎの家へと向かった。
あ、そうだ。
一度家に帰って晩御飯用のおかず持っていこう。
昨日の余りだけど、肉じゃがときんぴらごぼうが残ってたし。
あ、この前ほたるにあげたクッキーも残ってる。
家にあるものを考えながら、あかりはうさぎの「あかりー」と泣きつく姿を思い出して苦笑した。
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