星の道しるべ
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『ファイター、ファイター!』
元気な声に振り返れば、マリナが両手いっぱいに花を抱えて走り寄ってきた。
相変わらずのお転婆ぶりに、思わず笑みがこぼれる。
『見て見て、前に火球と植えた芍薬が咲いたの!』
マリナの両手には、黄色、白、ピンク、オレンジの芍薬の花。
大きく開いた花弁は薔薇とは違い、また美しい。
「本当、綺麗ね」
そう言って微笑めば、マリナも嬉しそうに笑った。
丁度お茶の時間ということもあり、マリナの持っていた花の半分をファイターが受け取り、手を繋いで二階のテラスに向かう。
今日は天気が良いから、テラスでお茶をしようと言ったのは火球だった。
『あ、火球ー』
マリナは椅子に座る火球を見て手を降った。
既にテラスにはヒーラーやメイカーもいて、お菓子やお茶も用意してあった。
『火球、芍薬が咲いたよ』
自分の持っている芍薬を火球に見せると、火球は「まぁ、とっても綺麗ですわね」と微笑んだ。
「そこの花瓶に生けましょう」
火球は何も生けていなかった花瓶を指差す。
メイカーがその花瓶を取り、ファイターとマリナが持っていた芍薬を生けてくれた。
綺麗に生けてもらい、マリナも嬉しそうだ。
「マリナ、そのだらけきってる顔なんとかしなさいよ。
只でさえバカなのに、もっとバカに見えるわよ」
『むっ、何よ!
ヒーラーの方がバカだもーん!』
「何ですって!?」
『べーっだ』
ヒーラーに向かって下を出すと、怒ったヒーラーが立ち上がり、マリナを追いかけた。
勿論、マリナも逃げる。
「こら待ちなさい!」
『やだもーん』
また始まった、とファイターは苦笑し、メイカーはため息をついた。
「全く、ヒーラー素直じゃないんですから…」
「マリナが元気がないと、一番心配してるくせに」
「仕方がありませんわね」
ヒーラーは元々あんな性格だから。
まぁ本人は本気で怒ってるわけじゃないし、マリナだってヒーラーが大好きだから良いのだけれど。
それにしても、毎日やっててよく飽きないな。
「捕ま『えてないもん』
もう少しで掴める、と思った瞬間、マリナは横に跳んだ。
間一髪ヒーラーの手を逃れ、またヒーラーに舌を出す。
そしてまた鬼ごっこスタート。
「相変わらず、マリナも身軽ですわね」
「本当ですね。
何であんなに身軽なんだか」
「あ、バク転…」
火球とメイカーがそんな話をしているなか、バク転したマリナにファイターは苦笑。
本当に、何であんなに身軽なんだ。
「ほら二人とも、お茶にしましょう」
メイカーに言われてマリナは素早く火球の隣に座った。
「ったく、このお転婆姫は…!」
『あたし悪くないもんっ!』
先に言ってきたのヒーラーだもん、とマリナがそっぽ向く。
「生意気よ、マリナ!」
『ヒーラーが悪いんだもん!』
「マリナ、ヒーラー?
いい加減にしなさい」
『「はぃ………」』
真っ黒な笑顔でメイカーに言われ、マリナとヒーラーは小さくなった。
怒ったメイカーはとにかく怖い。
そんな二人を見て、ファイターと火球がクスクスと笑う。
「どうぞ、マリナ」
『!
ケーキ!』
メイカーがマリナに差し出したケーキを見て、マリナの顔が明るくなった。
すぐに受け取り、美味しそうに食べるマリナは、本当に可愛い。
「マリナはケーキが大好きですね」
『うん!
だって、メイカーの作ったやつ美味しいんだもん』
「おや、ありがとうございます」
メイカーのケーキが好き、と笑ったマリナにメイカーも笑顔を浮かべた。
「あんまり食べると太るわよ」
『太んない!
ヒーラーの意地悪!!』
「本当のことでしょ」
「ヒーラー、マリナ」
メイカーのちょっとだけ低い声に、またまたマリナとヒーラーは小さくなった。
こあいよぉ…(汗)
「マリナ、それ食べ終わったら散歩に行きましょうか?」
『本当!?』
「勿論」
ファイターの言葉に、マリナは笑顔になった。
あれ以来、とにかくマリナはファイターになついていた。
そりゃもうベッタリと。
ファイターもマリナが大好きなので拒否したりしないのだけど。
マリナはファイターと一緒に何かするのが大好きなので、ファイターとお散歩が出来ることに喜びを感じていた。
『ファイター、行こう!』
メイカーのケーキをたっぷり堪能したあと、マリナはファイターの手を引いた。
ファイターはクスクスと笑いと「はいはい」なんて言いながらマリナと外に出た。
マリナが好きな場所は、小高い丘。
そう、あの日マリナが初めて変身した場所。
マリナはここにある木の上にいるのが大好きだった。
ただ、木に上るのはいいが、一人では降りられない。
毎回ファイターが降りられないマリナを助ける役目だった。
以前、それをヒーラーが「猫じゃないんだから」とからかったことがあった。
まぁ、今日は上ったりしないけど。
ファイターがいるから。
「マリナは、本当にここが好きね」
『うん、大好き』
金木犀の花が咲き乱れる丘。
マリナはそこから遠くの景色を見るのを、空を見るのを楽しみにしていた。
『あのね、ファイター』
遠くの景色をを見ながら、マリナは口を開いた。
『あたしがここを好きなのは、スターライツが初めてあたしに笑ってくれたからなんだよ』
マリナの言葉に、ファイターは目を見開いた。
『ファイターや、メイカーやヒーラーが言ってくれた言葉、すっごく嬉しかったの。
ありがとう』
あの日は言えなかったから、とマリナは笑って言った。
ファイターはそんなマリナが愛しくて、抱き上げた。
が、いつもは抱きついてくるマリナは戸惑ったように眉を下げた。
「どうしたの、マリナ?」
『…………重くない?』
毎日お菓子食べてるし…と言ったマリナ。
どうやらヒーラーの言った言葉を気にしていたようだ。
まだ幼くたって女の子。
体重を気にしてしまうのは仕方がないこと。
ファイターはクスリと笑うと、マリナを見た。
「重くなんかないわよ。
ヒーラーも、マリナが可愛いからついからかっちゃっただけなんだから」
『…本当?』
「あたしがマリナに嘘ついたことあったかしら?」
『…ない』
「ヒーラーだってマリナが大好きなのよ?
マリナが元気ないと、一番心配してるのはヒーラーなんだから」
この前、マリナが風邪を引いて元気がなかった時、もの凄く心配していたヒーラーを思い出してファイターは笑った。
「大丈夫よ、マリナ」
不思議。
ファイターが言うと、本当に大丈夫だって思える。
マリナは頷くと、ファイターに抱き付いた。
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