星の道しるべ
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一人の少女が、空を見上げていた。
おもむろに空に両手を広げる。
するとその瞬間、少女が上げた両手の上に光の玉が出現した。
ゆっくりと降りてくる玉に合わせて少女も両手を下げる。
少女の胸ほどの高さまで下がると光は弾け、5、6歳の子供の姿が現れた。
気を失っているその子供の体を受け止めて、少女は切なそうに微笑んだ。
「プリンセス!」
そう呼ばれて振り返ると、こちらに駆けてくる影が3つ。
それに少しだけ苦笑。
「プリンセス、その子は…?」
プリンセス・火球を見つけて安堵した3人…
彼女を守るこの星のセーラー戦士、セーラースターファイター、セーラースターヒーラー、セーラースターメイカーは、火球が抱える小さな女の子を見て眉を寄せた。
「彼女はマリナ。
太陽国のプリンセスです」
「太陽の…」
太陽国は、今…
現状は知っているため、ファイター達は眉を寄せたまま、マリナを見た。
「しかし、なぜ太陽国のプリンセスがここに?」
「太陽国のクイーンから、お願いされたのですよ」
太陽国のクイーンとは昔からの友人だった。
マリナが生まれた時はお祝いに太陽国に行ったほど。
そのクイーンから、マリナを守ってほしいとお願いされた。
太陽系から離れれば、敵も追っては来ないだろうという考えだった。
「私逹、この銀河系の者は、太陽国を中心に生きています」
太陽は、その光で世界を照らしている。
だからこそ、太陽は生命の星とも言われるのだ。
太陽の力が悪用されれば、大変なことになる。
だから、この銀河系の者は太陽を守らなければならない。
「わかりますね、スターライツ。
貴女逹のプリンセスは私であると同時に、太陽国のプリンセス・マリナも貴女逹の守るべきプリンセスなのです。
もちろん、私も」
火球は真剣な眼差しでスターライツを見つめた。
マリナは太陽国のプリンセス。
プリンセスである火球も、彼女を守る義務がある。
いや、それ以前にマリナというこの小さな少女を守ってあげたい。
そんな思いが、火球の中には溢れていた。
「…プリンセス、まずはその子は私が運びます」
メイカーが火球に近付き、マリナを火球から受け取ろうとする。
その瞬間、閉じていた瞳がゆっくりと開いた。
「マリナ、目が覚めましたか?」
『?
………っ!』
火球の優しい声に、マリナはボーッとしながらも火球に目を向ける。
そして今までのことを思い出し、咄嗟に火球の腕から逃げ出し、火球やスターライツから距離を取った。
その態度にヒーラーがムッとし、マリナに文句を言おうと口を開いた。
自分逹の大切なプリンセスに随分と失礼な態度ね、と。
だが、それを火球が手で制した。
そして、わからないのですか、とヒーラーに目で伝えた。
火球の自分に伝えたことがわかったヒーラーは、マリナに目を向けた。
マリナの顔には戸惑い、不安、そして恐怖の色が浮かんでいた。
何より、その小さな体が細かく震えている。
火球は優しく微笑むと、マリナを見つめた。
「こんにちは、マリナ。
私は火球。
ここ、キンモク星のプリンセスです」
『キン、モク星…』
母が行けと行った星だ。
無事に着いたことに、マリナは少し安堵する。
マリナは戸惑いながらも、丁寧に頭を下げた。
『あたしを助けてくれてありがとうございます、プリンセス・火球』
火球はそれに微笑んだ。
が、マリナの表情を見て少しだけ切なくなった。
きっと、戦いを見てきたのだろう。
マリナの表情に笑顔はなく、不安や恐怖の表情が抜けていない。
火球はマリナに近付く。
マリナも敵ではないとわかっているので、火球を拒否したりはしなかった。
「マリナ、彼女達は私を守るセーラー戦士、セーラースターライツです」
マリナの隣に立ち、火球は3人を見た。
マリナは戸惑いながらもスターライツを見て、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「セーラースターヒーラー。
別に、プリンセスから言われたから守るだけよ。
あたし達の迷惑にならないでよ」
「セーラースターメイカー。
私はヒーラーと同じ意見です。
太陽のプリンセスだろうと、私達にとっては関係ないのだから。
迷惑かけないでください」
「セーラースターファイターよ。
はっきり言って、あたし達は貴女を認めないから」
「ヒーラー、メイカー、ファイター!!」
3人の棘のある言葉に、火球が声をあげる。
だが、3人は謝る気はないようだ。
『プリンセス・火球、気にしないでください』
「でもマリナ…!」
『スターライツがそう言うのは仕方のないことです。
あたしは、スターライツのプリンセスじゃないから…』
スターライツは、プリンセス・火球のことを大切にしてるだけ。
彼女逹は悪くない。
マリナはそれに、と続けた。
『あたしも、守ってもらおうとは思ってませんから…』
マリナがそう言うと、火球はマリナを見て眉を下げた。
マリナに、と火球が宮殿の一室をくれた。
広い部屋に、大きなベッド。
美しい装飾のシャンデリアやドレッサー。
そして、マリナが一番目を引いたのは窓から見える金木犀。
マリナは窓を開け、そこに広がる美しい景色をただ見つめた。
『ソル…』
きっと、あの怪我じゃ助からない…
マリナはギュッと窓の縁を握った。
マリナは窓から外に出た。
一階で良かった、と思う。
金木犀の花を一輪摘んで、マリナは空を見上げた。
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