頂き
□昼寝日和
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暖かな日差しが差し込む心地好い空間。まさに“昼寝日和”といったところだろうか。
あまりに気持ちの良い天候だから、誰もが睡魔に襲われても仕方がないと言えば仕方ない。実際、先程まで己も縁側にてウツウツと船を漕いでいたのだ。
(それにしたって珍しい……)
薫は、障子が開け放たれた居間の中をまじまじと見つめた。
己の住まう屋敷の、それこそ見慣れた空間に普段ではなかなか見かけない珍しい光景を見つけたからだ。
「……剣心?寝てるの?」
薫はそっと居間の中に足を踏み入れ、その部屋の中央で横になっている人物に声をかけた。……が、返事は返ってこない。
座布団を枕にして眠っているのは他でもない薫の想い人、剣心だ。
こんな場所で寝ているなんて珍しい。
(しかも、わりと爆睡??)
薫は剣心の枕元に歩み寄り、そっとしゃがみこむと彼の顔を眺めた。
(……私より睫毛長いかも……;)
普段はなかなか気恥ずかしくて凝視することが出来ないのだが、薫は目に新しい彼の寝顔をここぞとばかりに観察した。
日本人には珍しい緋色の髪を持つ彼だがよく観察してみると、目元に影を落とす男にしては少し長めの睫毛にまで、緋の色素が混じっているものだからおかしい。
(綺麗。)
開け放たれた戸から差し込む陽気な日を受けて、剣心の緋色が光を帯びる。しかし、当の本人は瞼に優しくなかったのか少し眉間にシワを寄せるとコロリと寝返りをうった。
微妙に幼くも見えるその仕草に、薫は思わずクスクスと笑った。
「可愛いんだ。」
「んんー……」
呼び先で軽く、十字傷のある頬を突いてみると剣心が小さく唸った。
……これは驚いた。完全に熟睡している。
あまり人前で寝ている姿を見せる彼ではないはずなのだが。
(……それに、剣心は眠っていたとしても、人が近付いたらその気配で必ず目を覚ますわ)
そう思い当たると、薫の中に疑問が浮かんだ。
何故剣心は、薫がこんなに側にいるのに……こんなに凝視しているのに。不躾ながらちょっかいまで出していると言うのに、目を覚まさないのか。
「剣心……あなた本当に寝ているの?」
静かな声で疑問を投げ掛けて見るが、返ってきたのは規則正しい寝息のみだった。
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