捧げモノ

□黒い自分・白い君
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出稽古も終わり、そろそろかえる時間。

出稽古先の道場の影で薫殿を待っていた。

薫殿は、門下生の青年と一緒に笑顔で出てきた。

「薫さん、今日はありがとうございました!」

「いいえ こちらこそ」

笑顔で受け答えしている。

‘どうでしたか?僕の剣術’

その質問に詳しく、いい点、悪い点、オススメの稽古方まで答えていく。

「有り難うございます!俺、頑張るんで、また、稽古お願いしてもいいですか?」

「私でよければいつでも」
青年は“お願いします”と、頭を下げていた。



そして…



“今日のお礼がしたいのでぜひ、甘味屋にでも…”

と、薫殿を誘って来た。

「えっ、でも…」

“悪いわ”と薫殿は変わらない笑顔で答えていた。

「そんなっ悪いなんて!お礼がしたいんです。是非!!」

周りに残っていた数人の門下生の殺気が…

この者達もあわよくば薫殿を誘おうと待っていたのだろうか…。


「えっと…でも…帰りに寄る所があって…」

「そうだったんですか?でしたらご一緒していいですか?」

影から見ていて溜息が零れた。

この後も“でも”や“えっと”を連呼して断り続けている薫殿。

でも、口を開けば開くほど墓穴を掘って行った。

「重いものを持つなら役に立ちますよ!」

青年は腕をガッと上げて薫殿に見せ付けた。



キッパリと断らない薫殿を見ていると何と言うか、胸の下辺りが気持ち悪くなって行った。

そして、しつこい青年に対するストレス。

このままでは立っていられないような気だるさが自分にのしかかる。

黒い何かにうめつくされてしまいそうで、我慢できなくて、薫殿の前に出てしまった。

「剣心!!」

拙者が来ている事に気付いてなかったのか、薫殿が驚きの声を上げた。

「申し訳ないが、薫殿はこれから拙者と約束があるゆえ、失礼いたす。」


軽く会釈をして、薫殿と目線を合わす事無く
“さ、行くでござるよ”

と、手を引いて歩いた。


「ちょ、待ってよっ」

自分が我儘な子供の様で、情けなく感じた。

28にもなってこんな…。

「剣心!」

「ん?何でござるか」

振り向くと少し頬を膨らませた顔がポツリポツリと言葉をつむぐ。

「何で、見てたのに助けてくれなかったの?」

「助ける、どうして?」

「どうしてって…」

「イヤならイヤと、断るべきでござろう?」

「だって…悪いじゃない」





そうだ。

当たり前だ。

相手に悪い。

そんな事にも気付かず、考えずに、頭の中の言葉を口にしてしまった。

本当に、今日の自分はどうかしている。

また、溜息が零れた。

「…そうで…ござるな…」



「どうしたの?」

「え?」

「今日の剣心、おかしいよ」




わかってる。


でもソレはきっと、


あの青年と話す君の


笑顔のせいだ。





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