捧げモノ

□真心
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…。

いつもと変わらなかった。

最初、私はとても緊張していた。

なのに剣心は、いつもと変わらずに、

「薫殿、風呂の支度ができたでござるよ!」

って。

お風呂に入ってからも普通だった。

いつものように、自室に分かれて寝るのだった。

私は今まで弥彦と一緒に寝てたから、何と言うか部屋がけっこう広く感じた。

それに、寒かった。


・布団に入って一刻…

今日は、稽古もキツくて疲れてるはずなのに、

眠れない…。

おかしいな…。


・それからまた、一刻…

どうしちゃったんだろう…。

眠いのに、目を閉じたくない。

…。

寒い。

昨日までは平気だったのに

無理やり目を閉じてしまおうとした。

当たり前だけど、閉じるとそこは暗闇で、それがどうしようもなく、恐く思えた。



『……嫌だ。』



一人がこれほどまでに怖いものだったのか

と、久しぶりの一人に改めて痛感した。

お手洗いに行ったら治るかも知れない

と、一度起きてみた。

廁へ行く道はいつもの廊下。

客間を通って剣心の部屋を過ぎた所にある。

スタスタと、気持ち早足でそこへ向かう。

どうしてか足が止まった所は目的地ではなかった。


"違う違う。ここじゃない"

自分にそう言ってまた、足を進めようとした時、

「薫殿…。」

中から聞きなれた温かな声がした。

急に声をかけられ、ちょっと驚いた。

「…何?」

声が震えてしまわないように私は答えた。

「寝られないのでござるか?」

「え…。」

なんと言うか、図星だった。

また、心配させちゃったかな…。

そのまま"うん"と、答えればよかった。

「そんな事ない、ちょっと水を飲みに」

適当に言った事が少し目的地と違っていたけど、本当の事を言う分けにも…

と、思っていたので、これでよしとした。

「そうでござったか」

「うん。お休みなさい剣心」

「あぁ。薫殿、早く寝るでござるよ」

「はい」

障子ごしにフッと笑うと私はそのまま、元の目的地へと向かった。


お手洗いもすんで、また、廊下を行く。

零れそうになる溜め息をなんとか飲み込んでまた、早足で歩く。

あの時、"うん"と言っておけばよかった

と言う後悔が波のように押し寄せる。

そして、また足は、剣心の部屋の前で止まった。



もうだめ。
きっと剣心は寝てるはず



足を止めて少したった時、スッと障子が開く音がして、そちらを振り向く。

剣心が、立っていた。

ちょっと困った顔をした、剣心が立っていた。

「薫殿」

「な、なに?」

「拙者、今日はなんだか寝付きが悪くて」

「よければ一緒に寝てもらえぬか?」

一瞬で分かった。

私のために言ってくれてるって事。

私の強がりは、ばれていた。

その事が恥ずかしくて私の頬は熱くなった。

それに気付いた剣心が焦った様子で
「あ、無理ならいいでござ「いいよ」」

剣心の言葉が終わる前に、私はそう返した。

全て聞いたら私はまた、強がってしまいそうだったから…。

剣心はフッと笑うと、私を部屋に招き入れた。

あんまり入った事が無くて知らなかったけど、ほとんど物が置いてなかった。


ここに来て一年なのに…


これが少し淋しかった。

剣心はさっきまで寝ていたであろう布団には、全く温もりが無かった。

「剣心?」

「あぁ、拙者はこっちで寝るでござるから」

にっこり笑って剣心は目を閉じた。



……

………
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