妙玖入り!

□鶺鴒
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〜永正八年葉月十六日 安芸小倉山城〜
(語り:愛生)
ゆうべは十五夜で、しかも望月(※)。お城のみんなもお月見を楽しんだ。まんまるのお月さまがとってもきれいで、なんだか嬉しくて…つい夜更かししちゃったから、まだ眠い(ノ∀`)
※中秋(十五夜)は暦の都合上、満月の日に当たるとは限らず、十五夜が望月(満月)と重なるのはレアな年といえるでしょう。
「きゃ!?」
ぼーっとしながら歩いてたら、何かにつまずいて…
「愛生、大丈夫?」
妙ねえさまが素早く抱きとめてくれた。
「うん…ありがと、妙ねえさま
こんなところに木材なんか置いてあったっけ?
「今朝伐ってきたらしいわね」
「えっヾ(゚д゚)ノ゛でも今、大つち…」
大つち、小つちというのは土用と同じく、土を犯すことを忌む日。この日に木を伐ると、虫がつきやすく腐りやすいといわれる。これが大小あわせて半月にも及ぶから、土木作業も(長い間できなくて)大変だよね
「ええ」
妙ねえさまは苦笑い。
「父上に咎められて、結局使えなかったみたいね」
先日の台風で外堀の橋が傷んでて、修理のために木材が必要だったんだけど…大つちの始まりの日が昨日、つまり十五夜だったから、大つちなんて忘れてた人が多くて、運悪く木材が足りなくなってしまった。
「もったいないなぁ…使えそうなのに」
「そうね」
見た目じゃ違いなんてわからない…というか、人が勝手に迷信で決めつけただけで、木にとってはそんなこと関係ないのかもしれない。
「いたっ><」
「愛生!?」
木材を触ったら、指先に痛みが…
「あ」
小さな黒い虫…コクワガタのオスが私の指をはさんだまま、ぶら下がってる。
「…やっぱり、当たってるのかも
「こらっ、私の愛生を離しなさい」
妙ねえさまがひと睨みすると、クワガタはポロッと転げ落ちた。
「いじめちゃだめよ、妙ねえさま
クワガタを拾って連れて行く妙ねえさま。
「そこで、しばらく反省しなさい!」
相変わらず放置された漏刻の箱にクワガタを入れて、言った。
ここには、みそちゃん(三十三才という小鳥)が住んでいたけど、夏は暑かったから涼しい水辺に移動したみたいで、この巣は放棄された(ノ∀`)
「少し水を撒いたほうがいいかしら?」
「食べ物もあげなきゃ」
ただ閉じ込めておくのも可哀相だし、とりあえず西瓜をひときれ(端っこの小さいのだけど)分けてあげた。
※日本へスイカが伝わったのは江戸時代という説と、平安〜鎌倉時代にはすでに作られていたという説があります。いずれにせよ当時のスイカに縞模様はありませんでした。なお、クワガタやカブト虫を長期的に飼育する場合、スイカなど水分の多いものはお腹をこわしやすく、あまり良くないようです
「ひとりで寂しくないかな?」
「夜になったら、勝手に飛んで出て行くわ」
「そっか」
よく見るとクワガタさんも可愛いなぁ…強気のときはハサミ(大あご)を大きく開いて威嚇するけど、勝ち目がないと思うと脚をたたんでころんと木から落ちるの(*´艸`)
指をはさまれたらちょっと痛いけど、この子は小さいからケガしちゃうほどじゃないし。
「クワガタさん、またね」
十六夜のお月さまもきれいだけど、二日続けてお月見するには眠すぎた(ノ∀`)
眠ってしまった私を、いつものように妙ねえさまが抱っこして床へ連れてってくれて…
「ん…朝?」
巣作りでもしてるのか、やけにスズメが賑やか。
「あら、愛生。もう起きたの?」
「うん。おはよう、妙ねえさま」
久しぶりの早起き。自分でも珍しいと思う。
「クワガタさん、どうしたかな?」
「そうね…見に行ってみましょうか」
クワガタは基本的には夜行性で、日当たりのいい昼間は土に潜ったり木陰で休んでることが多い。
「あら、まだいたのね」
フタは無いから、飛んで出られるはずだけど…ここが気に入ったのかな?
「本当…あ、あれ?」
西瓜にくっついてるクワガタさんがダブって見えて、思わず目をこする。
「増えてるΣ(゚д゚ノ)ノ」
ハサミの小さいコクワガタは、メス。二匹は向かい合って仲良く西瓜を食べてるみたい。
「まあ。女の子を連れ込んでるなんて」
ちっとも反省してないのね!と妙ねえさま。
「ふふっ…でも、よかった」
二匹は翌日にはどこかへ行ってしまったけど、きっと今も小倉山のどこかで仲良く暮らしてるんじゃないかな。
数日後、空っぽになった(鳥の巣の名残はある)木箱の中で、西瓜の芽が出てるのを見つけた。
妙ねえさまと私しか知らない、夏の終わりの小さな出来事。
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