小説
□中二病は治せない
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「あのニュースでやっていた喧嘩騒動を僕達の間では能力者乱闘事件と呼んでいるわけね。」
「そのまんまじゃねぇか」
「……初耳だ」
「はいはい、説明する気0は黙っててねー」
口を挟んできた雅と峯岸を笑顔で受け流す天川。
どうやらネーミングは思いつきだったようだ。
「とにかく、その乱闘事件にある組織が絡んでいるらしくてね」
鏨に向き直って、彼女の浮気をチクる彼氏の友人みたいな顔つきで続ける。
「その組織ってのは、簡単に言うなればグレた高校生の能力者が集まった暴走族とか不良集団ってとこかな?ただ暴走族と違うのは、バイクで夜道をかっ飛ばしたりなんてことはしなくて、犯罪行為だけをやってるってとこ。僕達はグループって呼んでいる。」
天川の話にギョッとする。
そんな、小さくなった探偵が追っている悪徳集団のような団体が本当にあったのか。
「グループでは、リーダーが、バッグについているグループよりもっと極悪な暴力団から命令され、命令された任務をメンバーに割り振っているってわけ。」
「それじゃあ話を纏めると、暴力団がその不良集団を配下にして犯罪活動を活発にしているということですね?」
鏨の結論に天川は、そうそうと頷いた。
「まぁ、暴力団って言ったけど、正式には"犯罪協会"っていうもん。似たようなもんだからイイや」
適当な天川に脱力しつつも、あまりに非現実的な会話に、その会話をしている自分でも呆れてしまう。
「しかもグループのリーダーやら幹部達がこの学校に通っているらしくてね」
突如今まで1番に声を潜め、急接近して鏨の耳元に口を寄せてきた天川に目を丸める。
「それで僕は本部の命によって、わざわざこの学校に潜り込むためだけに教師免許までとったんだよー。ヒドイでしょ本部って」
話終えたとたんに離れて泣き真似をする天川に、雅が怪しげな占い師を見るような目線を向け、
「何言ってんだよ、教師免許軽々とったやつが」
「ヒドイなぁ、どこが軽々だったんだい?」
問い掛ける天川に更に胡散臭いものを見る目付きで、
「たまたま指令出された日が教師免許試験の前日で、次の日にあっさり合格しちまった奴がよ」
天川は数秒雅を見つめ、鏨に視線を戻して
「まぁ、それでさ」
「無視すんなよっ!!」
雅には答えず鏨に言葉を続ける。
「この学校に潜り込むのが教師の僕だけじゃ生徒の行動は掴みにくい。そこで
同じ生徒としてこの4人を本部は同行させたわけ」
そこまで天川が言い切って鏨が言葉を発しようとした瞬間、いきなり扉が派手な音をたてて開く。
見ると、出ていく前と様子が変わらない今成と、出ていく前と比べて明らかに傷が増えている坂木が入ってくる。
(おや?)
後から入った坂木がそのままドアを閉めるのかと思いきや、坂木は開きっぱなしのドアの横を素通りし、変わりに坂木の後から入った人物がドアを閉めた。
「え…?」
鏨の口から不思議がる声が漏れた。
鏨の後からは、雅が「へー、…あれが噂の」と、入ってきた人物を凝視し、峯岸はチラリと横目を走らせるが、また携帯を見つめる。
ドアを閉めた人物は、男子用制服に身を包んだ男子生徒だ。ニコニコと笑っているが、坂木や天川の笑みとは違い、柔らかな中にもどこか怪しげな雰囲気がある。
うーん、例えるなら黒い微笑と言った方が分かりやすいだろう。
「お邪魔させて頂きますよ」
その人は男にしては高めなソプラノの声で天川に言う。
だが、その人の容貌はソプラノの声がまさしく似合っていると言っていい。
肩ほどの長さの赤みがかった茶髪は癖っ毛なためか全体的に緩く巻かれており、動く度にふわふわと揺れる。
今成に促されて椅子に座る際に、シャンプーの香りだろうか横を通った時には何やら甘い香りが漂ってくる。
鏨の隣にその人は座り、鏨に向けて微笑みながら軽く会釈した。
鏨は頬が赤くなりながらも会釈をし返す。
「はー…珍しいね。今日はどしたの?多忙な生徒会長がこんな所に来ちゃって」
天川の言葉にハッとその人を見る。
入学式の演説では遠目からでよく見えなかったが、言われてみれば確かに輪郭や声で分かりそうなものだ。だが、式の最中にうとうと船を漕いでいたせいか全く気が付かなかった。
ー1年生の時の異例の生徒会長就任から3年間生徒会長を勤め続ける有名人と名高い人。
3年5組の海野宮 守子(カイノミヤ カミネ)さんだ。
「さては仕事サボりに来たな」
坂木が海野宮に、そうだろ、とでも言うような顔で言うが、
「まっさか〜、美時じゃあるまいし」
海野宮は笑顔で返す。
「それじゃ何なんだ?」
今成が怪しむ風に聞くと海野宮は肩を竦めてみせた。
「それじゃって…いつもサボっている様な言い方だね。ま、いいや。今日は皆さんに用があるの」
全員を見渡した海野宮はおどけた口調で話始めた。