小説

□迷惑も利用次第
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時は5月。大幅に時系列が進むこと1ヶ月だ。

5月といえば大体の高校生が魔の中間テストを控えており、もちろん鏨達もその例外ではない。

「それじゃ、来週からテストだからね。他の教科は欠点とってもいいけど、世界史だけは欠点者許さないからね」

「先生、なに面倒事から逃れようとしているんですか」

鏨が言うと、天川は笑顔のままで悪びれもしていない。

「だって夏休みなのに勉強教えるなんて嫌じゃない」

「それでも教師ですか?」

「そういう訳で、世界史の欠点者は無理矢理でも3付けとくから」

天川の欠点無し宣言に、おぉーっ!!とクラス中が沸き立つ。

「聞けよ!!このエセ教師!!」

「まぁまぁ、落ち着けよ鏨」

後ろから仙台が宥めにかかる。

「いいじゃん。世界史のテストは点が酷くても欠点にはならないんだぜ?」

「そういう問題じゃ…」

「あっ、それから」

何か思い出した様に付け足す天川にクラスの視線が再び集まる。

「30点以下は、本来なら欠点な訳だから、テスト終わった後1週間みっちり、補習をしてあげるよ。もちろん放課後にね」

語尾に音符マークが付きそうな口調で言う天川に、えーっ!?と、ブーイングが響き渡る。

「補習は嫌なんじゃなかったんですかー?」

1人の生徒からの質問にニッコリ笑って、

「それは休み中の話。普通に仕事がある日なら構わないよ」

途端、ガックリ肩を落とした教え子達を見て楽しそうに微笑む天川。

(上げてから一気に落とす…性格悪いな)

教壇に立つ担任を見上げていたら、フッとこちらを見た天川と目がかち合ってしまった。









「期待外れだったな」

昼休みは購買に行くのが日課となっている。

先ほどの授業…4時間目の天川による期待外れな発言に文句たれたれな連れは、もちろん仙台だ。

「でも夏休みにわざわざ学校に来るよりいいじゃん」

「放課後みっちりもたまったもんじゃねーけどな」

言いながら、食堂の出入り口の横にある自販機でお茶を買う。

4月下旬に早々とバイトを始めた仙台は、バイト先であるコンビニで廃棄物となったパンを学校に持って来ているため、購買には行かず、購買と食堂に挟まれた形にある自販機で飲み物を買うだけだ。

「やほー!仙台」

「あ?あー三神」

購買のパン争奪によりもみくちゃにされている鏨を見ていたら、トレイを持った詩音が小走りで駆け寄って来た。


「おい、走ると危ないぞ…って何持ってんだよ!?」

トレイの上に乗っているのは、女子らしく少量盛られた白米入りの茶碗とセルフの水。

そしてトレイの大半を占める大皿には、白い山が出来ていた。

「何って、鯛の塩釜焼きに決まってるじゃん」

「塩釜って何!?よくそんなもん食堂に売ってるな!!?」

「お買い得だったんだよ。250円」

「安っ!!カレーと同じ値段だし!!」

どうなってんだこの高校は、と思い食堂を覗いてみると、1人の女子がこちらに向かって手を降っている。

「詩音ちゃーん」

かつて家庭部に詩音を誘った峯岸だ。

「あっ!!魔琴(マコト)ちゃん。今行くー。またね仙台」

そう言うと仙台に背を向けて小走りに食堂へ戻っていった。

「痛た…でも取り敢えずパンは買えたからよしとするかな。」

「鏨…」

詩音と入れ替わりで、疲れた様子の鏨が戻ってくる。

「なぁ仙台。今、ツッコミチャンスがあったような気がするんだけど…」

「何、ツッコミチャンスって!?ってかよくあの乱闘で分かったな!?」
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