小説

□中二病は治せない
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入学式翌日というのもあってか半日で学校が終わったため、放課後に猛怒町に行っても白銀に帰ってきた時分もまだ早く、校内には部活動にいそしむ生徒や、何となく残っている生徒などで賑わいを見せている。

そのためか生徒の教室や職員室から大分離れている第2会議室にまで喧騒が伝るほどだ。

「まぁ、さっきの猛怒町での話なんだけどね」

出しっぱなしの折り畳み式の机を囲うように安物のパイプ椅子に腰を掛けた面々は、とてもじゃないが大怪我を負ってもおかしくないほどのダメージを喰らった人間と同一人物とは思えない。

峯岸は取り出したケータイの画面を見ることに没頭し、雅は手のひらサイズのパソコンに夢中、坂木は問題の書店で買ったと思われるコミックスを読んだり隣に座る雅のパソコンを覗いたりと忙しない。今成はケータイに繋がれたイヤホンを耳に装着して集中して何かを聴いている。

「ちょっとー、聞いてるのかなぁ?」

正面に座った天川は口元に笑みを称えたまま頬杖をついている。

「あ…はい」

4人の様子に面喰らいつつ天川に視線を戻す。

「悪いけどさ、さっきの内緒にしてくれないかな?」

「え?」

顔の前で手を合わせて言う天川に鏨はキョトンと目を瞬かせる。


「まぁ事情を説明すると長くなるんだけどさぁ……昨日の朝にやってたニュース見た?」

「見ましたけど…」

テレビの電源を切る直前まで見ていた番組だ。朝は大体ニュースばかりだから天川の言っている番組かどうかまでは解らないが…

「それでさ、能力者が交じっていた不良の喧嘩って内容のニュースは?」

「あの一般人が何人か怪我したという…?」

「そうそう」

笑みを絶やさずに少しだけ眉尻を吊り上げた天川は、なら話は早いとばかりに捲し立てる。

「実は君には言ってないことがあるんだが…この部活はただの部活じゃないんだ」

「なんたって遊び部だもんね!!」

「お前うるさい。こっちに来いよ……」

「ぎゃーっ!!痛い痛いこれ以上馬鹿になったらどうしてくれんのさっ!?」

「安心しろ。お前の脳細胞はもう死んでいる」

シリアスな空気を醸し出した天川の言葉を遮って坂木が割り込んで声を張り上げる。
ムックと立ち上がり、坂木の頭をワシッと掴んだ今成がそのまま部屋を出ていったが……気にしないでおこう。

「あの2人のことはさておき、…実は僕達、警察の者なんだ」

「…………はい?」


ポカンとした鏨に天川はジャケットの胸ポケットに手を入れて何かを取り出した。

その何かとは、天川の手のひらに収まる真っ黒な手帳だ。

天川は手帳を開くと、その中を鏨の見やすいように目の前に向ける。

たて開きの手帳の上側には生徒手帳の様に、その手帳にも透けたポケットが付いており、ポケットの中に納められたカードには、黄色ではなく紺色のジャケットを着た天川の顔写真が貼られている。

手帳の下側には、天川のフルネームが書いてあり、名前の上にも何か書いてあるようだが、天川が指で隠しているため読めない。

「指で隠してる部分は僕の階級。見ようとしちゃダメだよ」

どこか黒いオーラが漂った笑みを浮かべたが、直ぐに表情を引き締めた。

「僕は刑事で第四科に所属している。ほら、よくミステリーやサスペンスで捜査一科って聞かない?あれ刑事の第一科が殺人捜査担当で、科によって仕事が決まっているんだ。それで、犯罪組織対策を専門にしているのがこの四科ね。それで僕等の追っているのが……」

「って、ちょっと待て!!」

手の平を天川の口に当てる鏨に、

「どうしたのさ?いきなり突っ込みモードに入っちゃって」

「いきなりそんなこと聞かされて信じる奴は中二病患者ぐらいしかいないぞ!?大体その話事態が中二ノリの設定じゃねぇか!!」

「まぁまぁ落ち着いて。能力者がいる時点で既に中二病じゃん」

「そういう問題じゃねぇ!!」

(おや?)

途端、急に椅子に深く座り直し顎に手を当て、うーんと唸り始めた天川を、見つめ直す。

「それじゃあ聞くけどさ、さっきのは何だったのさ?」

真剣な面持ちになった天川が静かな声で聞く。

「そ…それは」

聞かれた鏨は言葉に詰まった。

「火双の兄貴が襲撃してきた理由だって君には説明できないでしょ?信じるかどうかは置いといてさ、まずは僕の話を聞いてみない?」

最後の疑問文の辺りで笑みを戻した天川にまたしても言葉に詰まる。

「…聞くだけですよ」
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