小説

□久々に会った幼馴染が多大なる変化を遂げて……いない
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 「おいコラ美時、テメーのせいでクソ重いだろうがっ!……雅ちゃんが」


 雅の両手は袋いっぱいの缶ジュースやらペットボトルが詰まったビニール袋で塞がれている。

 文句垂れる火双は手ぶらだ。

   
 「ならお前も1つ持てよ」

  
 美時は美時で、「だってまた福引が当たるとは思わなかったんだものー」とか眉尻垂れているが、……卵と大根を持っているから大目に見よう。


  この度商店街に雅の荷物持ちとして駆り出されたにのはバカ2名だ。


  『てめぇ等っ!!家事もしねーでダラダラしているんだったら、セール品ぐらい運べ!』


 そのようにしてお供をさせたうちの1名が飲み物が当たる星の下にいるのか、1000円以上の買い物レシートで1回引ける福引にて1等の飲料詰め合わせ1万円分を獲得した。
 付け加えると、本日の買い物は雅の念入りな計画に基づき2000円ぴったりに収めているため、お子様達に1回ずつ引かせてやったのだ。


 「ごめんね雅ちゃーん」


 「でも雅ちゃんならそんぐらい軽いもんだろ?」

 
 スーパーの戦利品(たまごお一人様1パック10円を4つ&大根お一人様1本50円を4本)を持って一応は謝る美時の隣で火双がいけしゃあしゃあと言うのはもういい。
 それはいいんだが……


 「あの、僕関係ないですよね!?何でこんなに買い物袋渡すんですか!!?」


 明らかに重そうな袋を持つ鏨がもっともなことを言う。


 「細かいこと言うなよ、クソ兄が来た時お前のピンチ助けただろうが!」


 「いや、先輩たち伸びてましたよね!!?
  実際に助けてくれたのは天川先生……ゴフッ!」


 何かしらを言いかけた鏨に固い物体がどこからか投げつけられた。
 
  
 デコに当たった小さなものは弾かれて、前にいる火双の手元に戻っていく。

 
 おそらく火双が投げたと思われるそれは、タブレット菓子のパッケージだ。


 (……ちょっと待て、なんかさっきのスーパーのテープが貼られているんだが、さてはカゴに勝手に入れやがったな?あぁ”ん!?)


 「おい火双テメー、何勝手に余計なもん入れてんだ!!」


 「ちょっとくらいいいじゃん!鏨を引き入れたおかげで卵と大根多く買えたし!」


 最初は鈴も伴って4人で行く予定だったのだが、いつの間にか出かけていたようで連れてこれなかったことが頭を痛めていた。


 そしたら火双が

 「おい!鏨!!お前もこれ持って並べよ!」


 どこからともなく見つけてきた鏨はオロオロしていたが、そんなこと構いはしない。


 かくして、予定通り4つずつ戦利品を獲得したことができたわけである。


 ……しかし鈴もいたら5つになっていたのに、惜しいことをした。
 次からは逃がさないようにしないとな。


 そして、始めは雅が持っていた1番重い袋は美時が飲み物を引き当てたために雅が持つこととなり、元々持っていた袋は火双に渡したと同時に鏨に渡された。


 「ったく」


 なんだかんだ火双に甘いところがあるのが雅だ。溜息吐きつつも許してしまう。


 「いやいや、僕への配慮は!!?」


 どうやら関係のない鏨に持たせたこともあっさり許していたようだ。
 それに気付いた鏨も声を上げる。


 「悪りぃ、夕飯御馳走するからよ」


 苦笑した雅に、まだわだかまりは残るものの、「雅先輩の料理美味しいからいいですよ……もう」と許可してしまうところが、荷物運びとされてしまうのであろう。

 
 と、なんやかんやで商店街を歩いていた一行ではあったが、ここで見慣れないものを見る。


 「はいっ!ではカメラ回しまーす!!」


 帽子を被ったTシャツ姿の男がテキパキと声を掛け、カメラを持った人や長いマイクを手にした人が囲んでいる。


 「あれってTVじゃない!!?」


 美時が色めきだし、火双も「マジか!?」とテンションが上がった。

 「うわー凄いですね」なんて鏨も浮足立っているようだ。


 田舎という訳ではないが、特別都会でもないためテレビが珍しいのだろう。
 

 3人以外にも野次馬が何人か突っ立っている。


 「ちょっと見てみようぜ!」

 手ぶらの火双が我先にと走り寄ったのを皮切りに美時と鏨も追いかけるように走っていった。うわー、若いっていいな。


 「テレビテレビ!」


 荷物を持っていた鏨よりも少し遅れて雅も近寄った。何時までもいるようなら引っ張って連れて帰らなくてはならない。自分は保護者なのだ。


 どうやらインタビューを受けているのは若い女性のようだな。
 遠目から見てもかなりの美少女と見て取れた。
 年齢は雅達とさほど変わらないように見える。
 シャツとスカートというラフな服装をモデルのように着こなす様は都会に行けばたちまちスカウトマンが押し寄せるように思えた。


 レポーターの男が聞いている横で快活に話すところを見ると社交性も十分にありそうだ。


 「あの人このままスカウトでもされちゃっても不思議じゃないですねー」


 鏨が自然と呟いているが、あながち予想でもないような気がしてきた。


 カメラの後ろで上司っぽい人が
 「名刺渡してこい」とか指示出しているんだからな。


 インタビューに夢中な3人は気づいていないようだが……うん?


 最初は火双たちとバカ騒ぎしていた美時の様子がなんかおかしい。


 インタビューされている少女を見たとたん、急に青ざめ、引きつり始めた。
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