小説

□偶然って怖いよね
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「マジサンキューな、鏨!」

 いつもの授業、いつもの掃除、いつもの詩音のツッコミチャンススルーが川のように流れていき、既に下校時間になった。
 いつもの帰り道、急に礼を言ってきた仙台をきょとんと見返すと、補足的に話し出した。

「今日、俺んち手伝ってもらっちゃって」

「あぁ、なんだ。僕もよく食事ご馳走になったからね。気にしないでよ」

 仙台の家は定食屋を営んでいる。いつもは夕飯時の忙しい時間帯は、大学生のアルバイトの人が来てくれるのだが、用事があるらしく来れないらしい。

 他のバイトの人も皆揃って出られない、あー、どうしよう、困った困ったと愚痴る仙台がうるさく、鏨が手伝うと言ったのだ。

 先輩達は、敵のパーティに潜入すると張り切っていたが今回は見送らせて頂こう。なにも一般人である自分が毎回参加することもない。それより、この間ご馳走になったクリームコロッケ定食のお礼をする方がいいのだろう。

 「5時からだから・・・・・・このまま直行でいいよな?」

 「そうだね」

 仙台の食堂とはそれほど離れていない。一端家に寄って着替えてきてもいいが、時間的にギリギリだろう。
 エプロンも貸してもらえるし、このまま行ってしまおう。

 「そういやさ、今朝のHRで・・・・・・ん?」

 話題を変えようとした仙台のポケットなら耳に馴染んだ流行りのポップスが流れてくる。
 電話だったのか、ケータイのボタンを押し、耳に当てた。

 「もしもーし。あぁ、これから帰るとこだけど、どうしたんだ?」

 暫く、ふんふん、と通話している相手に相槌打っていたようだが、「えぇぇっ!?」と驚きの叫び声が上がり、歩く足を止めた。隣にいた鏨まで、叫び声に伝染したかのように肩が跳び跳ねる。

 「お、おう。それで大丈夫なのか!?」

 何やら重大な事が起きたようで、真剣な顔して頷いている。
 
 「あぁ、分かった。心配いらねぇよ、鏨もいるし」

 重々しい空気の中に突如出てきた自分の名前に、心臓が跳び跳ねる。なんで今僕の名前を出すんだ。

 その後一言二言話すと、通話を切った仙台が、フーッと息を吐いた。

 「どうしたの?なんかあった?」

  鏨の顔を見る仙台の表情は晴れない。こんな顔をするとは、珍しい。

 「親父がな、病院に運ばれたらしい」

 「えぇぇっ!?」

 淡々とした口調だが、顔には焦りが浮かんでいる。
 
 「親父のやつ、出前運びに出掛けたらしんだ。いつもの道路を渡ろうと信号待ちしてたら・・・・・・猫が飛び出してきてな」

 語る仙台は歩みを再開させていた。合わせて足を進める。

 「その猫が車とぶつかりそうになって慌てて飛び出したらしい。」
 
 まさか、その猫を庇って轢かれたのだろうか?
 
 「・・・・・・猫の首根っこを掴んで無事道路を渡りきったものの、電柱に頭ぶつけて、軽い脳震盪を起こしたらしいだと」

 え?と聞き返しそうになったが、そこは堪える。
 深刻な空気で、言いづらそうに話している仙台には申し訳ないが、安心したものの、拍子抜けした。よかった、轢かれてなくて。

 「そんで、ぶっ倒れたとこ救急車呼ばれたから。念のために検査して、様子見で入院するんだと」

 今日、団体の予約入ってるのに何やってんだよ、と仙台は溜め息を吐く。

 「よし、鏨。急いで帰るぞ!」

 緊急事態に、走り始めた仙台を、慌てて追いかけた。


 
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