主・その他

□誰より近い、あいつ
2ページ/3ページ

数時間後。

穿界門が開き、一護は現世へと戻った。

見送りを済ませて帰る道すがら、隣を歩く恋次が私に問う。

「……どーする気だよ、あいつマジで自分から動く気無えぞ」

やれやれといった様子で溜め息を吐く恋次に、私は苦笑した。

「予想はしておったよ。済まぬな、勝手な頼み事をしてしまって」

「良いってことよ。こんなこと、自分で直接聞くわけにいかねえもんな。……で、どうする?これからもずっと待ってんのか?自分の気持ちにも、お前の気持ちにもいつ気付くか分からねえ鈍い野郎を、よ」

遠慮は無いが、恋次の評価は正しい。



「全く……何故、あんな難儀な相手を選んでしまったのか」

思わず漏れた言葉は、自分でも不思議なほど爽やかな響きだった。



危なっかしくて直情的で、鈍感で不器用で。でも誰よりも真っ直ぐで、情に厚くて優しくて。

そんな不安定な魅力を持つ彼奴に、どうしようもなく惹かれてしまっている自分に気付いたのは、一体いつのことだったろうか。


「……応えてほしいのは、事実なのだがな」

けれど。

彼奴の、そんな鈍さや純情ささえ、私は気に入っている。

そして、“恋仲”という特殊な名が無くとも、誰より強い絆で繋がっていられる、この関係も。


「まだもう少し、このままでも良いかも知れんな」

想いは秘め合ったまま。

誰よりも近く、信じ合える二人のまま。




「はあ……理解出来ねーな、お前も一護も。さっさと告るか告らせるかしてなるようになりゃ良いのに」

「貴様には、この楽しさは分からぬであろう。とにかく分かりやすいものを手っ取り早く求める子供だからな」

「うわ、あの人と同じようなこと言いやがる」

「おっ、それは光栄だ。………恋次!約束通り、今日は好きなだけ甘味を奢ってやるぞ!」

想いに浮きかけていた己の思考を、現実に引き戻すかのように放たれた私の一声に。

「……今は遠慮しとくぜ。お前らが一緒になれたら、改めて礼してもらうからな」

いつになく穏やかな瞳と声で、古くからの友は、答えたのだった。



《完》
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ