主・その他
□誰より近い、あいつ
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数時間後。
穿界門が開き、一護は現世へと戻った。
見送りを済ませて帰る道すがら、隣を歩く恋次が私に問う。
「……どーする気だよ、あいつマジで自分から動く気無えぞ」
やれやれといった様子で溜め息を吐く恋次に、私は苦笑した。
「予想はしておったよ。済まぬな、勝手な頼み事をしてしまって」
「良いってことよ。こんなこと、自分で直接聞くわけにいかねえもんな。……で、どうする?これからもずっと待ってんのか?自分の気持ちにも、お前の気持ちにもいつ気付くか分からねえ鈍い野郎を、よ」
遠慮は無いが、恋次の評価は正しい。
「全く……何故、あんな難儀な相手を選んでしまったのか」
思わず漏れた言葉は、自分でも不思議なほど爽やかな響きだった。
危なっかしくて直情的で、鈍感で不器用で。でも誰よりも真っ直ぐで、情に厚くて優しくて。
そんな不安定な魅力を持つ彼奴に、どうしようもなく惹かれてしまっている自分に気付いたのは、一体いつのことだったろうか。
「……応えてほしいのは、事実なのだがな」
けれど。
彼奴の、そんな鈍さや純情ささえ、私は気に入っている。
そして、“恋仲”という特殊な名が無くとも、誰より強い絆で繋がっていられる、この関係も。
「まだもう少し、このままでも良いかも知れんな」
想いは秘め合ったまま。
誰よりも近く、信じ合える二人のまま。
「はあ……理解出来ねーな、お前も一護も。さっさと告るか告らせるかしてなるようになりゃ良いのに」
「貴様には、この楽しさは分からぬであろう。とにかく分かりやすいものを手っ取り早く求める子供だからな」
「うわ、あの人と同じようなこと言いやがる」
「おっ、それは光栄だ。………恋次!約束通り、今日は好きなだけ甘味を奢ってやるぞ!」
想いに浮きかけていた己の思考を、現実に引き戻すかのように放たれた私の一声に。
「……今は遠慮しとくぜ。お前らが一緒になれたら、改めて礼してもらうからな」
いつになく穏やかな瞳と声で、古くからの友は、答えたのだった。
《完》