緋衣草〜燃える想い〜

□第五章 出された答え
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翠玉が――ラロが指を鳴らすと、突然周りの景色が歪んだ。

そして辺りが暗闇に包まれたが、不思議とお互いの姿ははっきり見えている。


「――此処は」

「催眠能力を使って作った模擬空間よ。私達のいる場所の周囲に思念波の結界を張って、霊圧や気配が外部から感知されるのを防ぐ。加えて、外からはこの場所はないものとして認識されるから、結界に触れられたり無理に破られたりすることも無い」

「此処は実際にはごく狭い場所なんだけれど、催眠の作用で、内部の私達は無限の空間と認識して自由に動き回れるわ」

「他でもない貴方との戦いなんだもの……どうせなら、邪魔が入る心配なしにやりたいじゃない?」

ラロはそう言って、静かに私に歩み寄る。






そして、

「―――朽木白哉、覚悟っ!!」

腕の鎌を振りかざし、斬りかかってくる。

私はすぐさま身を躱すと、抜刀し始解した。

「散れ、千本桜」

刀身が無数の刃と化し、ラロへと向かっていく。

ラロがそれを躱した。

と、同時に、急旋回した千本桜がラロの背後へと迫る。

「!」

ラロは避け切れず、黒衣が所々切り裂かれる。


ラロは、私の元へと戻っていく千本桜を見ながら、

「成程……やっぱり、現世にいた時とは速さも霊力も桁違いのようね。だけど――あたしが怖じけづく程じゃない」

そう言い放つと、鎌に変形した両腕から虚閃を放つ。

一発目を躱した後、別方向から迫ってきた二発目を千本桜で防ぐ。

壁型に集束した無数の刃に、虚閃が弾かれた。

現世にいた際は霊圧を制限されていた為、虚閃がかなり重く感じられたが、現在の力をもってすれば十分に対処できるようだ。

そのまま壁への集束を解き、千本桜の流れをラロへと向かわせる。

千本桜がその身体を包み込もうとした時。





ラロの姿が掻き消えた。

(瞬間移動か)

私はすぐさま、瞬歩でラロが元いた場所へ移ると、素早く振り返った。



しかし、私の背後に回り込んだと思ったラロの姿は何処にも見当たらず、霊圧も感じられない。

広い空間の中に、私一人だけがいた。

(?どういうことだ―――)





「馬鹿ね。何処見てるのよ」

驚いて振り返ると、ラロが私の真後ろ――先程と寸分違わぬ位置に立っていた。

その身から放たれる禍々しい霊圧も、先程と変わらない。


そのまま、腕の鎌が振り下ろされる。

咄嗟に後方へ跳び退いたことで、肩を少し掠めただけで済んだ。

だが。

次の瞬間、掠り傷の線が両側に伸び、大量の鮮血が吹き出す。

「っ!?」

触れても動いてもいないのに、傷口が突然広がった。


「どうしてか分からないって顔してるわね」

ラロが嘲るような声で言う。

「あたし、実を言うと戦闘能力そのものは、最上級大虚としてはそれ程高くないの。力も強くないし虚閃の威力なんて一番低い部類に入るわ。単純な攻撃力だけで言えば、中級大虚にだってあたしより上の奴等は沢山いる。
あたしの戦術の肝はね、特殊能力として持つ催眠と霊圧操作よ。姿と霊圧を消して不意を突いたり、一度付けた傷の大きさを変えてダメージを増やしたりね」

「ということは、この傷の大きさはただの幻覚という訳か」

「ええ。でも、催眠で感覚を支配された今の貴方は、その傷が本物であると信じて疑えない」

確かに、頭では本物では無いと分かっていても、感じる痛みや血が流れ出る感覚はは拒みようがなかった。
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