緋衣草〜燃える想い〜

□第四章 哀しき告白
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定時の鐘が聞こえる。

最後の書類を仕上げ、紙の束を纏めていると、

「隊長」

聞き慣れた声に顔を上げると、恋次が執務室に入ってきていた。

「……戻ったか」

「はい」

「席官達は」

「帰しました」

「そうか。報告書は明日の朝までに仕上げておけ」

それだけ言うと、私はまた書類の束に目を落とす。



「隊長」

気付くと、恋次が私の机の前に立っていた。

「ちょっといいスか」

「……報告ならば明日で良い」

そう言って目線を逸らし、私は書類を持って立ち上がった。

そのまま出口へと向かおうとすると、



「――待って下さい!」

擦れ違いざま、恋次に強い力で片腕を掴まれた。

持っていた書類が床に散らばる。


「っ……離せ」

「嫌です。今日は絶対に離しませんから」

「何のつもりだ」

「ちゃんと話したいんですよ。ここ最近、隊長俺のこと避けてばっかりでしたから」

「そんなことは」

「ないとは言わせません」

掴まれた腕をさらに引かれ、身体ごと壁に押し付けられた。

私の身体を挟むようにして、恋次が壁に手をつく。


「嫌がってますよね、俺が近付くの」

「分かっているのなら離せ」

「理由を言ってくれれば」

「何を……」

逸らしていた目線を合わせると、恋次が強い光を宿した瞳で、私を見つめていた。

「何でここまで拒絶されるのかは知りませんけど、隊長がどんな気持ちでそうしてるか位は分かります。俺を遠ざけるようになってからの隊長は、いつも悲しそうで、辛そうで、でもそれを無理矢理隠そうとして」

「……っ」

「俺に言いたいことがあるなら、ちゃんと言って下さい!もう……一人で抱え込むのはやめて下さいよ!!」

恋次が、感情をそのまま叩き付けるかのように叫んだ。





しばらくの沈黙の後、私は口を開いた。

「……貴様の方こそ」

「え?」

「貴様の方こそ、何故そうまで私を気にかけるのだ」


目の前の恋次の顔を真っ直ぐに見て、言う。

「決して外には出さぬ私の心を見透かして、何かにつけて干渉して……他の者は、そんな無躾なことはせぬ!」

思いをそのまま口にすると、声が思いの外震えた。

「先日のことにしてもそうだ。貴様の方が遥かに重傷であったというのに、私の傷ばかり気にかけた揚句、自責の念を抱かぬよう戒めまでしおって……一体何様のつもりだ!何故、そこまで私の中に踏み込もうとする!?」

今まで心の内に溜め込まれていた思いを、一息に吐き出した。

そのせいか激しく心が乱れ、目頭まで熱くなる。










すると、恋次が壁に付いていた手を離した。

そしてそのまま、私の顔へと触れる。

「副官だから……って言い訳は、もう通じませんよね」

見上げると、恋次が困ったような笑顔で、私を見下ろしていた。

「教えましょうか」

そう言うと、恋次は真剣な表情になり、

「何で俺が――」

顔を近付け、

「アンタを気にかけるか」

私の唇を自身のそれで―塞いだ。
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