緋衣草〜燃える想い〜
□第三章 乱れる心
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「螺絽っ、後ろは任せた!」
「はい、副隊長!」
互いに声を掛け合い、それぞれ目の前の敵に向かっていく。
今日は、現世に出現した巨大虚の討伐に来ていた。
メンバーは俺と、十席までの席官達。
近くにいた俺と螺絽は、一緒に何体もの巨大虚に囲まれ、他の隊員の様子は分からなくなった。
俺は卍解し、周りの巨大虚数体に一度に斬りつける。
後ろでは螺絽が、巨大虚に勢い良く斬りかかり、一体一体確実に倒していった。
それを確認すると、俺は目の前の虚に集中して向かっていった。
視界から全ての虚がいなくなり、他の隊員の援護に回ろうと振り返ったときだった。
螺絽が複数の巨大虚に取り囲まれて、必死で攻撃を避けている。
「螺絽!!」
俺は瞬歩で駆け付け、巨大虚達を斬り倒した。
「大丈夫か、螺絽!!」
「は、はい、なんとか」
螺絽は俺を見上げ、明るく笑ってみせた。
負傷した他の隊員達を四番隊へ送り届けた後、そのまま二人並んで隊舎へと歩いていく。
「なあ螺絽、あの時……危なかったのに何で助けを呼ばなかったんだ?」
俺がそう聞くと、螺絽は笑って答えた。
「何でですかね、あたし、とにかく混乱してましたから」
一見普通の笑顔だが、何かを隠しているようだった。
螺絽の腕を掴み、引き止める。
「俺が頼りない、と思ったとか?遠慮しなくていいから、ちゃんと話せ」
螺絽は驚いた顔をしてから少し考え、言葉を選ぶようにして話す。
「あの時、副隊長は『後ろは任せた』と仰いました。だから、あたしは一人でしっかり戦わないと、って思ったんです」
それを聞いて、俺は
(やっぱりな)
と思った。
螺絽が六番隊に来て一週間、俺は近くでその様子を見てきた。
いつも元気で、仕事ぶりも真面目な螺絽は、他の隊員からも好かれ頼りにされていた。
でも、一生懸命な反面、何かにつけて気負い過ぎるところがある。
困ったことがあっても、決して誰にも頼ろうとしない。
そして、自分の仕事には絶対ミスを許さない。
その、どこか頑なな振る舞いを押し通す螺絽が、俺は心配だった。