緋衣草〜燃える想い〜

□第一章 揺らぐ恋情
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「――して、その虚は人型…普通の死神とさほど変わらぬ体格であったと申すのじゃな」

「はい。腕の変形が無ければ、姿も我々とほとんど変わりませぬ。私の動きを先読みして攻撃を仕掛けるなど、高い知能も有しておりました。しかし、身に付けていた仮面は確かに虚のそれでございました」

「成程…確かに、最上級大虚の特徴と一致しておるな。何故現世に現れたのかは分からぬが、再び姿を見せぬとも限るまい。全隊に通達し、十分に警戒させるとしよう」

平時は穏やかな総隊長の表情が、この上ない険しさと厳しさを帯びた。






現世での一件から、丸二日が経った。あの後、私達は、駆け付けた四番隊員達によって護廷隊の救護詰所へ運ばれた。

私は、背に深い傷、手首に浅いが出血が多い傷があったものの、元々動けない程の重症ではなかった故、大事には至らなかった。

今は、二日間の鬼道処置と療養により傷が癒え、総隊長への報告に出向いたところであった。



問題だったのは、恋次の方だ。


辛うじて急所は外れていたが、出血も内臓の損傷もかなりのものだった。

幸い命に別状は無かったが、現在も意識は戻っていないという。





報告を終えた私は、その足で、つい先程まで入院していた救護詰所へ向かった。
傷が癒えるまでは絶対安静を言い渡されていた故、現世から戻った後はまだ一度も恋次の様子を見てはいない。

この二日間、私の心を支配して止まなかった男…





病室へ入ると、一人の見慣れた娘が、寝台の傍らに置かれた椅子に座していた。
霊力の療養を経て昨日から職務に復帰していた、義妹のルキアだ。

ルキアは私の姿を見るなり、急いで駆け寄ってくる。

「兄様!お怪我はもう宜しいのですか!?」

「ああ…大事ない。今、総隊長への報告を済ませてきたところだ」

「そうでしたか…何よりでした」

ルキアは私が搬送されてすぐの時にも、復帰直後で忙しい中、見舞いに来てくれていた。今回のことでは、彼女にも随分と心配をかけてしまったようだった。


「して…恋次は」

「はい、やはりまだ目を覚まさぬようで」

ルキアが立ち上がり、私を椅子に座らせた。

負傷直後に比べればかなり顔色も良くなったが、その目はまだ閉じられ、身じろぎ一つせず横たわる姿はまるで死んでいるようであった。

つい数日前まで、暑苦しい程の活気を振り撒いていたのが嘘のようだ。


「…私の、所為なのだ」

呟くと、ルキアが私の方を見る。

「恋次は、不覚を取り虚の刃を受けそうになった私を庇い、刺された。件の虚が現れる直前、立ち回りで敵に遅れを取ってはならぬと此奴を戒めたばかりであったというのに、私は……六番隊隊長にして朽木家当主、全ての死神の規範となるべき存在が、聞いて呆れるな」

「そんな…兄様が気に病まれることではございません。どれ程高い実力を持つ死神であろうとも、決して万能ではないのです。恋次はそうした兄様のお力の及ばぬ部分を補っただけのこと。謝罪をなさるよりも、その働きを褒めてやるべきですよ」

「しかし…」

私が言葉を返そうとしたその時。
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