主・一般

□最後の副官
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※原作486話ネタ。



「総隊長殿の痛嘆――我等若輩が推し量るに余りある」

そう言った隊長の背中は、いつも通り凛として、けれど何処か頼りなげで、悲しかった。






一番隊の雀部さんが死んだ。

尸魂界に侵入した正体不明の旅禍に殺されたのだ。今日は、護廷隊員たちが集まり隊葬が行われていた。


隊長が語ったところによれば、雀部さんは京楽隊長や浮竹隊長が生まれる前から卍解が使えたという。

本来なら何時隊長になってもおかしくない実力だったにもかかわらず――総隊長への忠義を貫きたい一心で、一番隊副隊長であり続けた。


他の死神を凌ぐ実力を持ちながら、誰よりも自分に忠誠を誓い常に傍にいた副官。そんな大きな存在を失った総隊長の姿は、今まで見たことが無いほど寂しげで、そして悔しげだった。






雀部さんの遺体が火葬され、隊員たちが広場を去ってからも、隊長はその場を動こうとはしなかった。

俺は敢えて帰ろうとは言わず、そのまま傍らにいた。


「……忘れていた」

不意に、隊長がぽつりと呟く。

「我等は護廷隊隊長格…常に最も危険な敵を相手にし、死と隣り合わせの立場に身を置く者。己も、近しい同志たちも、何時逝ったとしても不思議では無い」

「……そう、っスね」

俺は上手い返し方が分からず、それだけ言った。


すると、隊長は少し声の調子を弱めて、言葉を落とす。

「……私は……お前が何処へ行こうとも、必ず無事に戻ってくる故、そのことを忘れていたのかも知れない」

「…………!!」

それを聞いた瞬間、俺は無意識に顔を跳ね上げていた。



「恋次……私を超えずとも、実力が認められれば、将来の隊長の地位は約束され得るのだぞ」

「………何言って、」

「雀部殿は生涯をかけて総隊長に尽くし、最後まで誰よりも有能で誇りある副官であり続けた。その志は賞賛に値する。

しかし一人の死神のみに執着すれば、本来の力に見合った働きが出来ずに終わることもある。貴様のようにまだ若く、先の長い死神ならば尚更だ」

「………やめてください」

「私を傍らで守ることのみが、貴様の使命ではない。目標として目指すのならば、私個人ではなく隊長たちを――」



「やめろっつってんだろっ!!」



俺は耐えられずに怒鳴っていた。そしてすぐさま、隊長を後ろから抱き締める。その細い身体が折れるのではないかと思うほどに、きつく、きつく。

「っ、」

「今更…他の誰かを目標になんか出来るかよ……ずっとアンタに追い付きたくて、アンタの隣に立って追い越したくて、何十年も必死にもがいてきたんだよ俺は!!」

声が震え、目頭が熱くなる。だが俺は構わず続けた。


「俺は隊長になりたくて鍛錬積んでる訳じゃねえ。アンタに追い付きたいからっスよ。例え他の隊長全員に勝って、隊長の座を譲られても――俺は、アンタの副官を降りる気なんざ更々無え」

俯いて表情が見えない隊長。せめてその体温や震えをこの身で感じようと、俺は何度も抱き締め直した。



少し間が空いてから、隊長が震える声で言った。

「……ならばせめて……私が死ぬまで、私の副官であれ。他の何処へも、行くことは許さぬ」

身体に回された俺の腕に、両手がそっと添えられる。直後、腕に冷たい雫が落ちる感覚があった。

「……隊長の副官は、俺が最後っスから。絶対に」

そう誓った俺の頬にも、静かに伝うものがあった。

《完》
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