三万打達成企画!!

□散って、咲いて
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「それでは、山爺の零番隊昇進、加えてその辞退を祝って、かんぱーい!」

「……京楽、それって祝ってることになるのか?」

「相変わらずじゃの、春水は」

愉快そうに杯を掲げる京楽、それを見て苦笑する浮竹、呆れつつも目を細めながら口に酒を含まれる総隊長。

「ちょっとお、朽木隊長!君も何か反応してよ!おじさん1人ではしゃいでたって寂しいだけじゃない」

「……京楽、飲む前から絡み酒か?」

不満げな京楽を軽くいなし、私は徳利を手に取る。

「どうぞ、総隊長」

「うむ」

差し出された杯に酒をお注ぎすると、総隊長はその杯をゆっくりと傾けられる。

「全く、山爺はいいよなあ。若い子にお酌なんかさせて」

「こら、京楽!先生に何てことを」

「だって浮竹、見てみなよ。涼しい顔して鼻の下伸びてんじゃん」

「出任せも大概にせい、春水。人のことを言えた義理か」

憎まれ口を叩き合いながらも、そのやり取りはどこか温かい。これも、長年付き合いを持つ師弟である故だろう。



今宵は、一番隊隊舎からほど近い料亭にて、浮竹と京楽と私に加え、総隊長も交えての酒の席を設けていた。

霊術院の卒業式に来賓として呼ばれた帰りであり、総隊長の異動に関する諸事が落ち着いたところでもあった。

「今年は見所のありそうな子が揃っていましたね、先生。あの中から僕らの跡継ぎになる死神も出ますよ、きっと」

浮竹が笑顔でそう言うと、総隊長は軽く頷いて応じられた。

「そうじゃな。しかし、甘やかしは禁物じゃ。近頃は虚以外にも、完現術師のような得体の知れない輩もおるからの。それに、破面侵攻の折もひどい打撃を受けた。今の護廷隊の戦力では、あれに代わる勢力が来た時に対応できんぞ」

「はは……先生は手厳しいですね。でも、これまでもみんな鍛練を積んで、立派に成長してくれていますよ」

「無論じゃ。しかし、儂が安心して隠居できるようになるにはまだまだじゃな。お主らには隊長格として、早く初代を超える実力を身につけてもらわねば」

そう力強く話された後、総隊長は私に視線を移された。

「そこへ行くと、朽木。お主はよく心得ておるな。如何なる時でも己に満足することなく、常に精進するその姿勢。正に、全ての死神の模範じゃ」

感心したようにそう言われる総隊長に、私は恭しく頭を下げた。

「恐縮にございます」

「良かったな白哉!すごいじゃないか、先生に褒められるなんて」

浮竹が喜んで私の肩を叩いてくる。

私からすれば、死神として常に他の模範であることは入廷以前からの信条であり、至極当然のことだ。

それでも、こうして総隊長から直々に称賛されることは、当主として、また隊首として光栄なことではある。

満足げに頷かれてから、総隊長は続きを話される。

「お主自身の実力もあるが、後進の育成に貢献してくれておるのも助かる。今、隊長以外に我が護廷隊の者で卍解を習得しておるのは、公式には儂とお主の副官のみじゃろう。完現術師の一件でも、お主とともに良い働きをしたそうじゃな」

話が恋次のことに及んだ。彼奴はまだ未熟者故、誇らしく思うようなことではない。しかし、それでも賛辞を受けたからなのか素直に嬉しさがこみ上げ、私は再び頭を下げた。

「勿体無きお言葉でございます、総隊長。……まだ未熟者ではございますが、あれも己なりに精進はしておるようです。今のお言葉を伝えてやればさぞ喜びましょう」

「……、うむ。尤も、次の世代を育てねばならん立場としては、もう少し習得者が増えてほしいところではあるが」

そこで私はあることを思い出し、はっとした。

「総隊長、その節は……我が副官が大変なご無礼を致しました」

私が畳に手を付くと、総隊長は軽く手を振って制される。

「ああ、その件はもう良い。元々儂も、まだ清霊廷を離れるのは気が乗らなんだところじゃ」

「は………」

「霊王宮とて、人手が足りておらぬ訳でもなし。お主が気に病む必要はない」

平然としたまま杯を傾けられる総隊長を前にしても、私は気が晴れなかった。



一般隊員たちには知らされることはなかったが、かれこれ十日程前、総隊長に零番隊への昇進辞令が出された。

長らく護廷隊の長を務めて来られた総隊長だが、未だ他の死神に劣ることのないその実力、加えてそのご高齢さや任期の長さから、そろそろ今のお立場を離れ霊王宮へ上がられてはどうかとの話が来たのだった。

それに伴い、総隊長はご自分が退かれた後の隊長格の人事を御自ら編成されたのだが、幾つかの隊で隊長格の異動が設定された際、隊長の座に1つの空白が出来た。

総隊長はこの座に、現在雀部副隊長以外で唯一卍解を持つ副官である、恋次を昇進させて据えようとお考えになっていた。


しかし、私を通してその話を聞いた恋次は、昇進を辞退した。

霊王のご意向も影響している、総隊長からの栄転の辞令を、それこそ一瞬の迷いもなく拒絶したのだ。


しかし、それを知った総隊長はご立腹されることもなく、隊に空白を残した状態では安心して退けぬと、自らも昇進を辞退されたのだった。



「山爺の言う通りだと思うよ?朽木隊長。昇進なんて言えば聞こえはいいけどさ、この人の場合は『いい加減引退しろ』って催促されただけなんだから。きっと隠居する気がないから、手っ取り早く霊王宮へ閉じ込めとこうと思っただけだよ」

「人を年寄り扱いするな、春水。お主らが十分に力を付けてくれるまでは、儂はまだまだ戦うぞ」

「先生が自ら退いてくださるほどの力ですか……はは、俺たちでも先が長そうですね」

浮竹が苦笑する。

「しかし……彼奴が総隊長の面目を傷つけたことには変わりございません。私からもよく叱責しておきました故」

私がそう謝罪し、再び手をつくと、総隊長は徐に杯を置かれた。

そして、私を真剣な眼差しで見つめて問われる。

「………朽木。正直に申せ。お主の副官は、何故儂の伝えた話を断った?」

「…………?」

総隊長の突然の問いに、私は戸惑う。というのも、総隊長に面と向かって申し上げるにはあまりに失礼な理由だからだ。

「何を黙っておる。そう身構えずとも良い」

しかし、総隊長に強く促され、仕方なく私は申し上げた。

「は。……彼奴は、隊長に昇進するよりも、私の副官でいることを望む、と申しました。まだ現在の立場で学びたいことがあると……隊長格でありながら、甘えも良いところではございますが」

私がそう話すと、総隊長は徐に腕を組まれ、視線を他所に投げられる。

「……ふむ。誰かと同じようなことを言うのう」

「……総隊長?」

私は急に考え込まれた総隊長を不思議に思い、声をかける。

すると。
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