三万打達成企画!!

□冬物語★
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「じゃあ、いきますよ?」

「……ああ」

私が頷くと、仰向けになった私の上に恋次が覆い被さってくる。

首筋に口付けが落とされ、夜着の合わせ目に大きな手が入り込んできた。

肌が触れ合う感覚に身を任せるべく、私は静かに目を閉じた。



瞬間、瞼の裏に浮かび上がる光景。

布団の上で貫かれながら、悲しみの涙を溢れさせたあの夜。

暖かい腕に抱かれていても、別離の寂しさが頭から離れなかった夜。

朝霧の立ち込める中、私の手をほどいて遠くへ去っていく広い背――――――






「――――――っ!!」

私は思わず、密着していた恋次の胸を己の腕で引き剥がしてしまった。

「…………あ、」

「隊長、」

恋次が、少し戸惑いを浮かべた瞳で私を見下ろしてくる。

「やっぱり……まだ無理みたいですね」

「……………っ」

夜着を掻き合わせて隠した胸元に、冷たい汗が流れ落ちた。


「大丈夫っスか」

「………………………済まぬ」

「いいんスよ。こればっかりは仕方ねえし。……ほら」

恋次が腕を伸ばし、私の身体を引き寄せてきた。私はそれに逆らわず、大人しく抱き込まれる。

「これは平気なんスよね」

「ああ……おかしなものだ。触れ合っているのは変わらぬというに」

「そんな申し訳なさそうに言わないでくださいよ。隊長らしくもねえ」

私の頭をそっと撫でながら、恋次が慰めるように囁く。

「ゆっくり………治していきましょうよ。俺はもう何処へも行きませんから」

「………ああ」

私は恋次の胸に顔を埋めたまま、呟くように返した。









藍染との戦いが終結して暫く経ち、混乱はまだ続いているものの、尸魂界にも平穏な日々が訪れつつあった。

虚圏へ乗り込んだ恋次たちも、それを追った我々隊長格も無事に戻った。

護廷隊での職務も滞りなく遂行されている。


だが…一つだけ、戻っていないことがある。


私と恋次のことだ。



恋次とルキアが虚圏へ発つ前夜、私は初めて恋次に抱かれた。

今生の別れとなるやも知れぬ最後の夜、彼奴の魂をこの身に刻みつけるために。

そして、再び逢える時までその熱を忘れないために。


そして、恋次が無事戻ってきた後、朽木家で内輪のものながら祝言を挙げた。

これからは、二人決して離れはしない。はずだった。









あの夜を終えてから今日に至るまで、恋次と私は一度も肌を重ねてはいない。

瀞霊廷へ戻ってきて以来、私の身体が恋次に抱かれることを拒絶するようになったからだ。

着物の上から触れ合ったり、軽く抱き寄せられたりするのは問題ないのだが…二人で床に入り、肌を重ねようとすると、あの時の別離の恐ろしさが甦り、どうしても先へ進めない。


そしてその度に、酷い罪悪感に苛まれる。行為に及べないとわかった後も、そのまま傍で眠ってくれる恋次の優しさが、余計に辛かった。




私から離れ、夜着を直している恋次に、私は横になったままぽつりと言った。

「…私を待たずとも、良いのだぞ」

「えっ?」

恋次が驚いて私を見る。

「このような面倒な相手にこだわらずとも…まだ若いお前ならば、いくらでも相手にする者がいよう。無理に我慢をするな」

私は胸の痛みを覚えながらも、そう言った。



しかし、

「…平気っスよ」

恋次は私の隣に寝転ぶと、壊れ物を扱うかのようなゆっくりとした手つきで私を抱き寄せた。

「俺…約束しましたよね?必ずアンタを幸せにするって。こんなことぐらいで逃げたりしませんから…安心してください」

「………」

「そりゃ、俺だってお預けにされたままは辛いし、隊長を捨てて逃げ出しちまえば簡単ですよ?でも……それじゃ、隊長と一緒に幸せになるっていう、俺の大切な夢もなくなっちまう。

それに…副官になった頃から、アンタの無茶振りには慣れてますしね」

「…お前の出来が悪いだけだろう」

「へへ」

小さく笑いながら、恋次は私の髪を優しく撫でる。

「隊長のそういうとこ…好きですよ?なかなか思い通りになってくれねえし、意志が固くて、でも真っ直ぐで。俺も隊の奴等も、隊長のそういう強さに支えられてんですから」

「……済まない。礼を言う」

「謝らないでくださいって。褒めてんスから」



恋次はそのまま朝まで、私を離そうとはしなかった。
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