二万打達成企画!!

□恋椿〜常に貴方を〜 ★
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「お前も加わりたいんじゃろう、あの列に」

隊舎の屋根から、眼下に広がる十一番隊の総行進を見下ろして静かに問うのは、七番隊副隊長・射場鉄左衛門。


傍らに座る恋次は、少し間を置いてから答えた。

ほんの一年半ほど前ならば自分も加わっていたはずの雄々しい隊列を、珍しいほどに複雑な表情で一心に見つめながら。












「……俺はもう、六番隊っスよ」












それを耳にしてしまった私の中で、音にならない悲鳴を上げて何かが軋んだ―――気がした。


























「はあっ!」

「!」

気がつくと、攻撃が目の前に迫っていた。

私はそれを紙一重でかわすと、床を踏みしめて斜め前方へ一歩出た。

そのまま身体を捻って方向を変えると、手に持った木刀で相手のそれを叩き落とす。

其奴が次の行動を取るよりも一瞬早く、その首元に己の木刀を突きつけた。


白く荒い息を吐く其奴は、一瞬悔しげな表情になった後、参ったというように笑ってみせる。

「さすがっス」

「無駄な力を入れすぎるなと申したろう」

私は木刀を引くと、平時の通りに毅然と告げた。




年の瀬も押し迫った、寒さが身に沁みる師走の日。

明日は午後から、今年最後となる演習がある。

それに備えて、少し手合わせを頼みたいという恋次に応え、昼休みに稽古をつけてやっていたのだった。




「何度も指摘しておるというに、改善が為されぬのはどういうわけだ」

「いや、俺だって努力はしてますよ。でもとどめを刺す直前になると、どうしても熱くなっちまって」

道場の床に胡座をかき、弁当を口へと掻き込みながら、恋次が不満を零す。

隣に座っている私も弁当を口へと運びつつ、其奴の粗野な所作に眉根を寄せた。

「………もう少し落ち着いて食えぬのか。飯粒が先程から零れておるぞ」

すると、大きな音を立てて床に弁当箱を置いた恋次が、表情を輝かせ興奮した様子で叫ぶ。


「だって!今回は久々に十一番隊と合同演習なんスよ!?あの更木隊長や一角さんの暴れっぷりを間近で見られる機会なんて、なかなか無えし……これで悔い無く年を越せるってもんスよ!!」


そう、今日は珍しいことに、六番隊と十一番隊が合同で演習を行うことになっていた。

一年半と少し前…私の副官になるまでは十一番隊六席を務め、 護廷隊随一の戦闘部隊の一員として数多の斬り合いの場を駆け抜けてきた此奴は、未だにその気質が抜けていないのだ。


「いやあホント楽しみっス。六番隊来てからは、前みたいな激しい打ち合いする機会も少なくなりましたから」

恋次は、まるで子供のように浮かれて言った。



そうした恋次の様子を見て私は、心に重く黒いものが渦巻くのを感じてしまう。


(何を考えている?恋次は――昔を懐かしみ、訓練に対し意気込みを見せているだけだ)

頭では納得していても、心の疼きが止められない。



十一番隊。

一月前のある出来事以来、私はその名に過剰なほど反応するようになってしまっていた。


他ならぬ―――――

恋次の口から、その名が出る度に。



「恋次、控えよ。十一番隊ほどではないにしろ、六番隊も腕のある死神たちの集う実戦部隊であろうが」

軽く諫めるつもりが、意図せずきつい口調になってしまう。

案の定、恋次は弁当を掻き込む手を止め、驚いたように私を見てくる。

「………いや、責めているのではない。只、副隊長が自隊の気風に対し、あからさまに不満を漏らすのもどうかと思うだけだ」

私はすぐに取り繕ったが、恋次は不審そうに私の顔を覗き込んだ。


「………何だ」

「隊長……何か最近変じゃないっスか?」

「何を言う」

「だって、普段は自分から他の隊の戦術を研究したり、いい人材がいたら異動の検討したりよくしてるじゃないスか。『より良い体制を作る為には、他隊から学ぶことも必要だ』って」

………その通り。此奴が副隊長に就任した頃から、私が言い聞かせてきたことだ。

「けど、最近は妙に対抗意識が見えるっていうか。特に十一番隊に」

「………、気のせいだ。元々、規律を重んじる我が隊と、野卑な者ばかりが集う十一番隊は反りが合わなかろう」

それを聞いた瞬間、恋次の霊圧が大きく揺れた。


「ちょっ……そんな言い方無くないスか?確かに荒くれ者の集団かも知れないっスけど、十一番隊の奴らは皆自分の信念はちゃんと持ってるし、戦いには常に全力で挑める立派な死神っスよ」


恋次は今でこそ六番隊副隊長として、上官の自覚を持ち無鉄砲過ぎる振る舞いは極力控えているものの、元は生粋の十一番隊員だ。

それだけに、他隊の者たちには知られていない、十一番隊ならではの気風や魅力を理解し、死神としての彼等を尊敬してもいる。



先程述べた通り、規律や節制を重んじる我が六番隊は、昔から十一番隊と反りが合わず、隊員たちも互いに好感情を抱いていなかった。

合同で演習や任務があると聞くと誰もが嫌がり、偶然顔を合わせる場があっても、所属隊の名を聞いただけでその者の人格も見ることなく関わりを絶とうとした。



斯様な状況が変わったのは、恋次が副隊長に就任してからだ。

最初は元十一番隊の名を恐れ敬遠していた隊員たちだったが、その気さくで部下思いな人柄に触れるうちにわだかまりもすぐに無くなり、彼奴は隊員たちの敬慕を一心に集めるようになった。

そのことに加え、彼奴が十一番隊を誰よりも尊敬していたことから、やがて我が隊の隊員が十一番隊員を見る目も変わり始めた。

そして意外なことに、此方が接し方を改めると、相手の方もそれまでほど棘々しい態度を取ってこなくなったのだ。

私自身も、そのことを理解しており、此奴や隊員たちの前で十一番隊を悪く言うことはほとんど無くなっていた。



しかし…………今は。




「…………済まぬ。少々言い方を間違えた。深く考えるな」

「あっ、隊長!」

まだ何か言いたそうな恋次に構わず、私は弁当箱を片付けると、隊舎へと戻るべく立ち上がった。




その時。

突然、脳が揺れるような感覚と共に、足元が大きくふらついた。

「っ、」

咄嗟に壁に手を付き、身体を支える。

「隊長!?ちょっ、大丈夫っスか!?」

慌てて駆け寄ってくる恋次と視線を合わせること無く、私は答えた。

「大事無い。気にするな」

「いや、でも……」

「気にするなと言っている」

強い口調で言うと、恋次は渋々といった様子で引き下がる。


私はそのまま早足で歩を進め、道場を出ていった。
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