二万打達成企画!!
□涙の夜、決意の朝★
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私の身辺では別段、変わったことなど何も無い。
至って普通の日であった。
平時と同じく隊舎へ出勤し、平時と同じく職務をこなし、平時と同じく屋敷へ帰る。
隊員たちとも、変わったやりとりは何一つ無かった。
だが、朽木家では、平時と大きく変わる出来事があった。
「ほら、ルキア様!せっかくなんですから白哉様にも見ていただかないと」
「ち、ちよ!そんなに引っ張るな!恥ずかしいではないか」
「何を仰るんです、晴れの日を明日に控えての大事なお披露目ですよ?ちっとも恥ずかしくなんかありません」
女中に手を引かれて私の部屋へと入ってきたルキアは、髪を肩の上ですっきりと切り揃え、死覇装も質の良い物に新調していた。
「い、いかがですか、兄様……?」
恥じらいながらおずおずと尋ねるルキアに、私は賛辞の言葉をかけた。
「立派になったな。護廷隊の新たな副隊長に相応しい姿だ」
先日、十三番隊で、数十年ぶりに副隊長が置かれることが決定した。
その任に就くのは――――ルキア。
平隊員とは名ばかり、彼女が既に上位席官以上の実力を持っていることは、隊内だけでなく他隊の隊長格たちにも知れた事実となっていた。
本来なら、もっと早くこのようなことになっていたとしても、おかしくはなかった筈だ。
にもかかわらず、ルキアが今まで平隊員のままであったのは、私が仕組んだからだ。
隊長格としての権限や人脈を使い、何とか彼女が席官とならぬよう、手を回し続けてきた。
何故なら、ルキアには――ルキアにだけは、安全な場所に身を置き、健やかに過ごしてほしかったからだ。
父を虚との戦いで早くに失い、母も病で失い、愛した緋真にも先立たれた私にとって、ルキアまでも死の危険に晒すことは耐え難かった。
彼女だけは、守ってやりたかった。
だが。
わざわざ私の屋敷へ出向き、頭を下げて頼み込んできた浮竹の姿を思い出す。
『白哉、本当に済まない!君の気持ちは知っていたのに、こんなことになってしまって……でも、俺は上官として、彼女を傍で見てきたから分かる。あの子は平隊員なんかでくすぶっていていい子じゃない!活躍の場を与えて……世界を広げてやりたいんだ!』
『浮竹……』
『危険な目に遭わせるだろうことは分かっている。だからこそ君も、俺の所へ頼んできたんだったよな。しかし、俺は隊長として、あれだけ大きな可能性を持つ部下を、平のままで終わらせることはどうしてもできない!頼む……どうか許してくれ……!』
そう言って畳に頭を擦り付ける浮竹の姿は、幼い頃に兄代わりとなってくれていたあの時とは全く違う。
目をかけた部下を正当に評価してやりたいと願う、護廷隊隊長の姿そのものだった。
自分でも、気付いてはいた。
斯様なことをしていても、決してルキアのためにはならぬと。
本当に彼奴のことを思うならば、地位を上げ、様々な任務に赴き、経験を積んで成長することを促してやるべきなのだと。
そもそも、我等死神の使命は、虚と戦い討伐を行うことだ。
戦う実力があるのなら、それを以て任務を全うするのは当然のことだ。死神の規範である朽木家当主が、否定すべき理ではない。
ルキアの将来を考えても、死神としての使命を考えても……私が態度を改めるべきなのは明白。
私は少しも異を唱えること無く、浮竹の申し出を承諾した。
いよいよ明日。
就任の儀が執り行われ、ルキアは正式に十三番隊副隊長となる。
今回のことでは、ルキア自身もかなりの葛藤を強いられていた。
永久欠番であった筈の海燕の地位を継ぐ。そのことが彼女に与える重圧や、思い出させる痛々しい記憶。
想像しただけでも、胸が抉られるようだった。
だが、彼奴は逃げることなく、十三番隊副隊長の名をその身に引き受けることを決断した。
その強い意志と実直な心は、正しく賞賛に値する。
浮竹に、当日は私も式に出席しルキアの晴れ姿を見てほしいと頼まれ、私はすぐに承知した。