二万打達成企画!!
□涙の夜、決意の朝★
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夜半過ぎ。
屋敷の者たちが寝静まってしまっても、私は寝付けずにいた。
書を手に取っても、集中して読むことが出来ない。
「……何をしているのだ、私は」
ルキアが副隊長となる。
彼女の実力からしても、護廷隊の理からしても、至極当然のこと。
むしろ、今までの私が間違っていただけだ。
それに浮竹からも、そして浦原からも言われた。
『大丈夫だ、白哉。あの子は強い。今までだって、強大な大虚や破面を何度も倒してきたじゃないか』
『白哉さん、ルキアさんを信じてあげてくださいよ。きっと大丈夫ですから』
そうだ。
朽木家の名に恥じぬよう精進を怠らず、その結果彼奴が何物にも揺るがぬ強さを手に入れたことを、私は知っている。
信じて送り出してやるべきだ。
―――――なのに。
何故―――このような、悶々とした気持ちになる?
「隊長」
「!」
この場では決して耳にする筈の無い声に、私は少し驚いて目を向けた。
「俺の霊圧にも気付かねえなんて……どんだけ考え込んでたんスか?」
「………別に、考え込んでなどいない」
部屋の窓から姿を現したのは、紅髪の副官。
本来ならば、私の許可無くこの屋敷に立ち入ることなど許されない身分の筈だ。
「如何にして入った」
「いや、皆寝ちまった後みたいだったんで、塀の辺りからこっそり。ガキの頃は似たようなことよくやってたんで、得意なんスよ」
「屋敷の警備を強化せねばな」
「うわ!ひでえ」
重く思索に耽っていたところに突如現れ、静寂を掻き乱した其奴に、思わず溜め息を吐いた。
「一体何の用だ、斯様な刻限に」
くだらぬ用ならば追い返そうと思い、そう尋ねると。
「隊長が泣いてる気がしたんで」
思いもよらぬ答えに、私は逸らしていた目を恋次の顔に向ける。
口調こそ柔らかいが、その紅い瞳は真剣そのものといった強い光を湛えていた。
「泣いている、だと?」
「はい」
「何故だ」
私が問い返すと、恋次は戸惑いの表情を浮かべた。
「………、気付いてねえんスか?霊圧、すげえ不安定になってますよ」
「っ!」
そう言われて意識を集中してみると、身に纏う霊圧は今にも壊れそうなほどに揺らいでいた。
(私としたことが………)
すぐに気を静め、霊圧を整える。
すると、恋次が窓枠から降りて静かに歩み寄ってきた。
「隊長……我慢しなくていいんスよ」
諭すようにそう言う恋次は、優しいがひどく悲しげな面持ちをしていた。
「……………何を」
言っている?と返すより一瞬早く、私は恋次の腕に抱き締められていた。
頭に手を添えられ、広い胸に顔を埋めさせられる。
「ホントに気付いてねえみたいだから言いますけど……今日の隊長、ずっと様子が変でした。書類はいつもの倍以上時間かけてるし、声かけても上の空だし、昼飯も食べずにずっと執務室に籠もりきりだし……言わねえだけで、隊の奴らは皆気付いてました。もちろん俺も」
「そ、のような……」
「隊長、正直に答えてください」
私の身体に回した腕に力を込め、恋次が問う。
「原因は………明日のことっスよね?」
「――――――っ!」
その瞬間、己の中で何かが決壊しそうになり、それを抑え込むように私は霊圧を上げた。
「ぐ……!!」
恋次が苦しげに呻き、一瞬腕の力が緩んだ。
その隙を見て、私は身を離そうと試みる。
しかし。
「っ、待ってください!!」
すぐに身体を掴まれ、強引に引き戻された。
「放せ」
私は更に霊圧を上げる。
「ぐっ!……嫌です」
「放せ」
「嫌です!!」
霊圧を上げれば上げるほど、抱き締められる力は強くなる。
流石にこれ以上は、屋敷の者たちを起こしてしまう……そう思い、私は諦めて霊圧を下げた。
耳元で、恋次の苦しげな息遣いが響く。
何故か胸が刺すように痛んで、私は恋次の死覇装を握り締めた。
やがて、息を整えた恋次が、私を抱き締め直しながら言った。
「隊長、明日になったら、何も言わずに平気な顔して式に出て、あいつの門出を祝ってやらなきゃならないんスよ」
俯く私の髪を、骨ばった指が優しく梳く。
「その前に、今思ってることも、言いたいことも、全部ここで吐き出していってください」
心に沁み渡るような、穏やかだが強い意志が感じられる声に。
抑えていたものが、溢れ出した。