二万打達成企画!!

□涙の夜、決意の朝★
2ページ/6ページ

夜半過ぎ。

屋敷の者たちが寝静まってしまっても、私は寝付けずにいた。

書を手に取っても、集中して読むことが出来ない。


「……何をしているのだ、私は」



ルキアが副隊長となる。

彼女の実力からしても、護廷隊の理からしても、至極当然のこと。

むしろ、今までの私が間違っていただけだ。



それに浮竹からも、そして浦原からも言われた。

『大丈夫だ、白哉。あの子は強い。今までだって、強大な大虚や破面を何度も倒してきたじゃないか』

『白哉さん、ルキアさんを信じてあげてくださいよ。きっと大丈夫ですから』



そうだ。

朽木家の名に恥じぬよう精進を怠らず、その結果彼奴が何物にも揺るがぬ強さを手に入れたことを、私は知っている。

信じて送り出してやるべきだ。





―――――なのに。




何故―――このような、悶々とした気持ちになる?












「隊長」




「!」

この場では決して耳にする筈の無い声に、私は少し驚いて目を向けた。

「俺の霊圧にも気付かねえなんて……どんだけ考え込んでたんスか?」

「………別に、考え込んでなどいない」




部屋の窓から姿を現したのは、紅髪の副官。

本来ならば、私の許可無くこの屋敷に立ち入ることなど許されない身分の筈だ。

「如何にして入った」

「いや、皆寝ちまった後みたいだったんで、塀の辺りからこっそり。ガキの頃は似たようなことよくやってたんで、得意なんスよ」

「屋敷の警備を強化せねばな」

「うわ!ひでえ」

重く思索に耽っていたところに突如現れ、静寂を掻き乱した其奴に、思わず溜め息を吐いた。

「一体何の用だ、斯様な刻限に」

くだらぬ用ならば追い返そうと思い、そう尋ねると。






「隊長が泣いてる気がしたんで」



思いもよらぬ答えに、私は逸らしていた目を恋次の顔に向ける。

口調こそ柔らかいが、その紅い瞳は真剣そのものといった強い光を湛えていた。


「泣いている、だと?」

「はい」

「何故だ」

私が問い返すと、恋次は戸惑いの表情を浮かべた。

「………、気付いてねえんスか?霊圧、すげえ不安定になってますよ」

「っ!」

そう言われて意識を集中してみると、身に纏う霊圧は今にも壊れそうなほどに揺らいでいた。

(私としたことが………)

すぐに気を静め、霊圧を整える。



すると、恋次が窓枠から降りて静かに歩み寄ってきた。

「隊長……我慢しなくていいんスよ」

諭すようにそう言う恋次は、優しいがひどく悲しげな面持ちをしていた。


「……………何を」

言っている?と返すより一瞬早く、私は恋次の腕に抱き締められていた。

頭に手を添えられ、広い胸に顔を埋めさせられる。



「ホントに気付いてねえみたいだから言いますけど……今日の隊長、ずっと様子が変でした。書類はいつもの倍以上時間かけてるし、声かけても上の空だし、昼飯も食べずにずっと執務室に籠もりきりだし……言わねえだけで、隊の奴らは皆気付いてました。もちろん俺も」

「そ、のような……」

「隊長、正直に答えてください」


私の身体に回した腕に力を込め、恋次が問う。




「原因は………明日のことっスよね?」




「――――――っ!」

その瞬間、己の中で何かが決壊しそうになり、それを抑え込むように私は霊圧を上げた。

「ぐ……!!」

恋次が苦しげに呻き、一瞬腕の力が緩んだ。

その隙を見て、私は身を離そうと試みる。

しかし。


「っ、待ってください!!」

すぐに身体を掴まれ、強引に引き戻された。


「放せ」

私は更に霊圧を上げる。

「ぐっ!……嫌です」

「放せ」

「嫌です!!」

霊圧を上げれば上げるほど、抱き締められる力は強くなる。

流石にこれ以上は、屋敷の者たちを起こしてしまう……そう思い、私は諦めて霊圧を下げた。


耳元で、恋次の苦しげな息遣いが響く。

何故か胸が刺すように痛んで、私は恋次の死覇装を握り締めた。




やがて、息を整えた恋次が、私を抱き締め直しながら言った。

「隊長、明日になったら、何も言わずに平気な顔して式に出て、あいつの門出を祝ってやらなきゃならないんスよ」

俯く私の髪を、骨ばった指が優しく梳く。

「その前に、今思ってることも、言いたいことも、全部ここで吐き出していってください」


心に沁み渡るような、穏やかだが強い意志が感じられる声に。

抑えていたものが、溢れ出した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ