小説2

□Tempo felice
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昼下がり。大好きな、彼の部屋で。
「ティッツァにからかわれたって?」
「あ、はい。君は子供っぽいって…」
クス、と笑った彼…ボスは、そのままパソコンの画面からは目を離す事はなかった。
ディアボロ。ネアポリスのギャング組織・パッショーネのボス。そして、俺の恋人でもある。
コーヒーを飲む彼の横顔を眺める…長い髪、大きな瞳が、どこか中性的で美しいと思う。
いつも、俺の淹れたエスプレッソが一番美味いと言ってくれる。嬉しい。子供の頃に彼に拾われてから、ずっと一緒に暮らしてきたのだから、彼の好みはよく把握している。
「しかしお前達は仲が良いな」
「ティッツァは何だかんだ言って良い奴ですから。最初はちょっとおっかなかったけど」
こうやって、彼と二人で過ごす時間が俺は大好きだ。たわいない会話をしながら――。彼は忙しい。何日も帰ってこない事もあるから、ゆっくりと過ごせる今日みたいな日は、俺にとっては凄く嬉しいものだ。
「スクアーロ」
一段落ついたのか、マウスから手を離し、軽く伸びをしながら俺のほうを見た。
「ジーナがお前の事を褒めていたぞ。気が利くし、何しろ、そこいらの俳優なんかより男前だと」
気恥ずかしくなり、苦笑いで誤魔化した。ジーナ。有名な大女優だ。俺から見ればおばさん…だが。ボスの交友関係は広い。政治家も、芸能界の重鎮あたりにも顔がきく。
彼はそういった人達の集まる場所によく俺を連れていく。今では慣れたものだが、最初は酷く緊張したし、女優や社長夫人なんかが、やたらと褒めちぎってくるのが照れくさかった。
が、そんな俺を見てボスはとても満足そうにしてくれるのが嬉しいんだ。
「お前、来月は誕生日だな」
「はい」
「23か」
「ボスに出会ってから、ちょうど10年ですね」
そう言うと、彼はにっこり微笑んでくれた。カップをテーブルに置くと、おいで、とソファーの隣に座る俺の肩を抱き寄せる。
「んっ…」
俺も背は高いほうだが、彼のほうが少し大きいし、なにより体格がいい。抱きしめられると、腕の中におさまってしまう。
「10年前。ボスに出会えて本当に良かった…」
中学生の頃。両親が事故死した。何もかも嫌になった俺は学校の寮を飛び出し、夜の路地。彼に出会った。
そこからだ。彼と暮らす日々が始まったのは。
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