パロディ小説

□昆虫ものがたり。ミツバチくんと悪いスズメバチ編
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深い深い、森の奥。そこには、色とりどりの花が咲き乱れていた。

一面に咲く菜の花。そこにやってきた、一匹の蜂。
黄色い花びらの奥に潜って、一生懸命に蜜を集めている。
「ふう…今日は結構たくさん集まったぜ」
蜜がたっぷり入った壺を抱えて微笑むその蜂は、14、5歳くらいの少年の姿をしていた。淡いブラウンの巻き毛から、二本の黄色い触角がちょこんと覗く。背中には小さな羽。黒と黄色のボーダーの服が可愛らしい。赤い眼鏡をかけて、つんと澄ました顔が涼しげな少年ミツバチ…ギアッチョだ。
「ちょっと味見しちゃおうかな」
花びらの上に腰掛けて、壺の蜜を指先ですくうとペロッと舐める。
「あまーい。へへ…」
つい止まらなくなって、すくっては舐め、すくっては舐めを繰り返す。
そんな微笑ましい様子を見ていた黒アゲハがギアッチョに声をかける。
「おーい、あんまり食べ過ぎるなよ?いっぱい持って帰らないと女王蜂様に叱られるんだろう?」
「あ、イルーゾォ」
漆黒の美しい羽と、長い黒髪をなびかせる黒アゲハはギアッチョの髪をポンポンと撫でると飛んで行った。
「これくらいにしとかなきゃな。女王様おっかないんだ…」
あわてて壺の蓋を閉じるギアッチョ。
そろそろ城に帰らなくちゃ。その前に、クマバチの城に寄って行こうかな。クマバチのホルマジオとリゾットは、とても優しいから大好きだ。この辺の昆虫達は、みーんな仲良し。
ギアッチョが飛び立とうとした時。
「坊や。たくさん蜜持ってるねえ。ふふ、もう帰るのかい?」
「…うわあっ!」
…不意に姿を現したのは、唯一ミツバチとは仲の悪い連中の一人だった。
「可愛いなあ。さっきからずっと見てたんだよね」
長い羽をバサバサとはばたかせて飛ぶ、ブロンドヘアーの男。長身の引き締まった体をタイトな黒い衣装で覆った彼は、スズメバチのメローネだった。
「お兄さんにもさ、ちょっと食べさせてよ。ね?」
「…やっ、やだやだぁ!」
慌てて壺を抱えるギアッチョ。スズメバチは、ミツバチの天敵だ。
「えー、一口だけだってば」
ギアッチョの前に降り立ったメローネは、少年のギアッチョよりも随分大きい大人のスズメバチだった。
美しく整った顔が、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「駄目だって!」
怖くなってしまったギアッチョは、ついその場にへたりこんでしまった。
スズメバチは、俺たちミツバチとは違って蜜を舐めたりしないのに。怪しい。こいつら肉食だからな。俺食われちまう!
「そんな恐がらないで…さぁ」
恐怖のあまり動けないギアッチョに、じりじりと近寄るメローネ。
「ミツバチの子って甘い匂いするよなぁ…可愛いなぁ」
泣きそうな顔のギアッチョの前にしゃがみこみ、彼の髪を撫で、可愛い触覚を指先でツンツンつつく。
「ふええっ!やだぁー!」
「そんな怖がるなって。何も虐めたりしないからさぁ」
食べられる…!パニックになったギアッチョが取り出したのはスタンド…ではなく、先端に氷の針がついた槍。
「スズメバチ嫌いっ!」
「…いてっ!」
槍の先端がメローネの肩をかすめた。隙をついてギアッチョは、震える足で立ち上がり、壺を抱えて飛び立った。
「うわーん!」
「待てー!」
泣きじゃくりながら、必死で逃げ惑うがスズメバチのスピードには勝てない。
ぐんぐん追い付かれて、後ろから羽交い締めにされるギアッチョ。
「嫌ー!!」
「全く…優しくしてやろうと思ったのに。痛かったんだからなー」
痛かった、とは言うものの、メローネの右肩は軽く血がにじんだ程度で、たいしたダメージは負っていない。しかもミツバチの針は一生一度しか使えず、氷の針は溶けてなくなってしまった。
大ピンチの、ミツバチギアッチョ。
「離せー!離してよぉー!」
「だーめ。お兄さん怒っちゃったからねー」
そのままメローネはギアッチョを押さえ付け、地面に降り立った。
「こら、そんなに暴れるな!あっ…」
「あ!」
…大変な事だ。着地する際、暴れたギアッチョが蜜の壺を落としてしまったのだ。
たっぷりの蜜が入った壺は無残にも割れてしまい、せっかく集めた蜜は台無しになってしまう。
「ち、ちくしょー。蜜がぁ…あっ!」
呆然とするギアッチョを、その場に押し倒す悪いスズメバチ。
「やっ、やめろよぉ!何するんだよぉぉ!」
「生意気なミツバチちゃん…食べちゃうからね」
そっと頬を手の平で包まれる。長い髪がギアッチョの首筋に触れたが、くすぐったい、だなんて感じる余裕はなかった。
「何…を」
「んー、やっぱり可愛い。このプニプニした頬っぺとか…たまんないな」
メローネはギアッチョの眼鏡を外し、じっと彼の顔を覗き込む。
「よく見たら本当幼いな。坊やいくつだ?」
「坊やなんて呼ぶなっ!ガキじゃないんだからな、クソッ」
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