パロディ小説

□昆虫ものがたり。ミツバチくんと悪い蜘蛛編
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「何だ、外が騒がしいな」
クマバチ城の最上階。仕事の合間、ホルマジオとコーヒーを飲んでいたリゾットは、窓の外に目線を送る。
「若い奴らがよ、空中戦の稽古してんだよ」
「ああ、そういう事か」
クマバチ王国は、昆虫界でも有数の軍事国家だ。その軍を統括する王、リゾットは満足気に頷いた。
「そういや、兵隊と言えば」
「ん?」
赤髪のクマバチの兵士…ホルマジオが呟いた。
「若い連中に牢屋の番させてんだけどよ。嫌がるんだよなぁ」
「何だ。仕方ないな、最近の若い奴は。まあ確かに退屈な仕事だとは思うが」
しょうがねえなあ、と口癖を漏らすホルマジオを、リゾットが訝しげに見つめる。
「どういう事なんだ?」
「メローネだよ」
その名を聞くと、リゾットの表情は途端に厳しくなる。
「牢屋番は15、6の若い奴らに任せてんだがよ。メローネがちょっかい出してくるんで、怖いんだとよ」
「はぁ…」
コーヒーカップをカチャンと置くと、頭を抱える王リゾット。その姿を見るホルマジオは、おいおいコイツ俺より年下なのによぉ、最近いっそう老けたよなあーなどと考えているのだから、気楽なものだ。
「少年兵の…配置を変えてやれ。うん、年寄りの兵隊でも置いておけばいいんだ…」


「なぁなぁ、坊や退屈してんだってば。構ってくれねぇか?」
「ふざけるなっ!!」
クマバチ城の地下。少しの光さえも射し込まない暗い牢に、スズメバチ・メローネは投獄されていた。
「つれないねぇ。坊やもさ、牢番なんてつまんないだろう?こっち来て話でもしないか?」
「誰がお前なんかと…ちょっとは黙ってろ!」
牢番を任された少年兵は、この傲慢な囚人の扱いに困り果てていた。
投獄された直後は不貞腐れた顔を見せていたが、慣れてくると、もうこの有様だ。
「なぁ、こっち来なって。ああ、クマバチ軍のさ、軍服ってセンスあるよなぁ。暗くてよく見えない。もっとこっちに…」
「嫌だ!」
仲間の少年兵達が、ふと牢に近寄った時に尻を撫でられた、なんて言う話を聞いている彼は、断固としてその誘いには乗らなかった。
「坊やいくつだ?」
「…14」
「へぇ!17くらいに見えたぜ。クマバチの子は大人びて見えるモンだなぁ…」
無遠慮にじろじろと見つめてくるメローネの視線には気付かないふりをして、少年は椅子に腰掛けた。
全く、奇妙なスズメバチだ。黙っていれば女王蜂みたいに綺麗な顔をしているのに。少年は、スズメバチを近くで見るのは初めてだった。
綺麗なのは顔だけじゃあない。その体つきは、彼らクマバチに比べると一回りは細いのだが、決して華奢なわけではなく、引き締まっていて男らしかった。
牢獄の中だというのに、自分の部屋であるかのように、ベッドに腰かけ長い足を組み、何食わぬ顔で笑ってみせる。
つい、ちらちらと目をやってしまう。
「ん?何だ?ふふん」
「…何でもないっ!」
その時、静まり返った地下に足音が響いた。すぐさま、少年の表情に緊張の色が浮かぶ。
普段は牢番の兵くらいしか足を運ぶ事のない地下の監獄。
そこに姿を見せたのは、王リゾットだった。
「あ…!へ、陛下!」
即座に敬礼する少年兵に微笑みかけると、鉄格子越しにメローネと向かい合うリゾット。
「よぉ。何?陛下がこんなトコに来るなんてさぁ。…久しぶりだな、リゾットさん」
リゾットがメローネとこうやって顔を合わせるのは、あの日…メローネをスズメバチの城で捕えた日以来だった。
部下の兵に任せ、牢に放り込んだのはいいものの…。
たいした奴だ、とリゾットは呆れ返った。投獄されて、2週間ほど過ぎただろうか。反省の色どころか、疲れた様子さえ見せない。その瞳には、余裕さえ感じられた。
「お前の処遇をだ、どうしてやろうかと思ってな」
「ははっ!そろそろ此処から出してもらえるかい?いい加減、飽きてきたからな」
深いため息をつくと、リゾットはきっぱり言い放った。
「いいだろう。正直、いつまでも此処に置いておくワケにはいかんからな」
その言葉を聞き、少年兵は驚いた顔を見せる。
「陛下!危険ですよ、こんなスズメバチを釈放するなんて!またミツバチ城を襲撃するような事になったら…」
「ああ、そのへんはちゃんと考えてある」
意味深な言葉にメローネは顔をしかめる。
「どういう事だ?リゾットさん」
「追放だ」
「何?」
「ここいら一帯には、二度と踏み込む事は許さん。遠く離れた…そうだな、東の森あたりにでも送ってやるさ」
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