パロディ小説

□賭けと、猫の子。
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黒い空に、ぽつぽつと輝く星と、不気味に紅く光る月。
鬱蒼と茂る木々の間を、蝙と翼の生えた妖魔達が飛び交う。
ここは、悪魔達の、住む世界。



「で、何か最近面白い事は?」
ワインを飲みながら、意地悪く微笑む悪魔。
長い金髪を顔に垂らし、片目を隠してはいるが、深い海のように蒼い左目と、陶器のような白い肌、高い鼻に薄い唇を持つ彼は、男とは思えないほどの妖しい美しさを持つ悪魔、メローネだった。
「お前はいつも、そればかりだな」
メローネにそう返すのは、ここ一帯を支配する魔界の王族の一人、リゾット。
「そんな頻繁に変わった出来事なんざないさ」
脚を組んで椅子に腰掛け、ブランデーを飲む王、リゾットはメローネとそう歳は変わらないのだが、長年…そう、何百年にも渡り魔界中の悪魔を統括してきた貫禄のせいか、ひどく落ち着いた風格を漂わす。
そんな彼の城を訪れて、こうやって飲みかわしながら、たわいもない話をするのがメローネは大好きだった。
「ん…そうかい。でも俺は、凄く…さっきから気になっていたんだけど」
怪訝そうな顔をするリゾットの背後に目をやるメローネ。
薄暗い部屋の奥。
淡い色のカーテン付きの天蓋があるベッド…に横たわる、黒猫の少女。
美しい金色の巻き毛から覗く、黒い耳。心地よさそうに眠る、あどけない寝顔。水色のドレスの裾は捲れ、白い足が危なっかしい色気を醸し出していた。夢でも見ているのか、黒い尻尾がゆらゆらと揺れている。
「イルーゾォに聞いたのさ。あんたが…凄く可愛い猫を飼い始めたってね。ああ、話通りだよ。あんな可愛い子を、どこで見付けてきた?」
ふふん、と王は得意気に笑った。
「ギアッチョか。可愛いだろう。隣国からの貢ぎ物だ」
すやすやと眠る猫を眺めながらメローネは笑った。
「しかし、あんたも趣味が変わったね…まだ子供じゃないか」
「この前、16になった」
「ふふ…!16、そう…。意外だな、もっと子供に見えたよ」
空になったワイングラスをテーブルに置くと、軽く伸びをしながらメローネは煙草に火を付ける。
「なあ、リゾット。ゲームをしないかい?」
「何?」
「ゲームだよ。俺が勝ったらさ…あの猫を、今夜好きにさせてくれないか?今夜だけさ」
それを聞いて、普段は寡黙なリゾットが珍しく大きな声で笑う。
「そうくるかと思った。なるほど。なら、俺が勝ったらお前は何をくれるんだ?」
「プロシュート」
リゾットの、目の色が変わる。驚きを隠せない様子で、メローネの顔を見つめた。
「何だって?」
「吸血鬼の国の、あの伯爵さ。お前、この前パーティーで見かけて気に入ってただろう。最近知り合ったのさ。上手いふうにしてやるよ」
少し間を置いて、王は立ち上がった。
「良いだろう」
「そうこなくちゃ、な」
「で?前みたいに飲み比べをするのか?それとも魔力を比べ合う?どうする」
「そうだな…」
少し考えて、メローネが答えた。
「あんた、召喚魔法は使えるかい?」
「もちろんだ」
「こうしよう。この場に呼び出せる程度のだから、あんまりデカイのは無理だけどさ。いかに強い召喚獣を呼べたほうが勝ちって事さ。面倒だから、実際に戦わせなくたっていい」
「構わんぞ」
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