小説

□オッドアイと、母親。
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ごめんなさい。ぶたないで、ぶたないで…

脱ぎ捨てられた服やゴミが散乱する部屋。テーブルの上には、グチャグチャに散らかった化粧道具と、空の酒瓶。
「うるさいね、出ていきな」
「お前なんか、ちっとも可愛くないよ」
「産むんじゃなかったよ」
罵声をあびせながら、少年を殴り続ける女。
「マンマ。マンマごめんなさい」
「マンマぶたないで」
「愛してるから、マンマ。いい子にするから、ぶたないで」

真っ暗な部屋。俺は目を覚ます。
また、あの夢か…
クーラーを付けているにも関わらず、変に寝汗をかいていた。
喉がカラカラに渇いていた。自室から出て、リビングに向かうとギアッチョがパソコンに向かっていた。
「まだ起きてたのか?」
「おう、動画サイトで音楽聴いてたらな、止まんなくなってさ。はは。起こしちまったか?悪いな」
「いや」
リビングのすぐそばにあるキッチンの冷蔵庫を明け、ペットボトルのミネラルウォーターを取り出しながら、俺は答えた。
「嫌な夢見ちまって目ェ覚めただけだ、大丈夫」
汗のせいで、髪がベッタリ頬や額にはりついていた。
洗面所で鏡を見る。
深い海みたいな、濃いブルーの左目。
いつもはアシンメトリーに伸ばした前髪で隠している右目が、乱れた髪の間から覗いていた。
左目とは対照的な、薄い水色。

顔にまとわりつく髪が鬱陶しくて、ゴムで一つにまとめた。
鏡に写った自分の顔。
そっくりだ。
幼い俺を殴り続けた、クソみたいな母親に。
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