小説

□冬の、はなし。
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「なあ、ギアッチョ」
吐き出した煙草の煙を眺めながら、俺は彼に声をかける。
「なんだよ」
彼は安物のブランデーを煽りながら、そう答える。
決して視線は俺に合わせようとはしない。
俺のほうを振り返りもせず、グラスを見つめたまま気だるげに、いつものように、そう返す。
「雪、やまないね」
そっと窓を少し開けてそう言うと、「寒いだろうが、開けんじゃねぇ!」と怒鳴られる。
「俺の育った街は雪なんかあまり降らなかったからさ、つい、珍しくて」
ソファーに寝転がり、俺はそう言って笑った。
吸いかけの煙草を、灰皿に押し付ける。
彼がやっと振り返る。
「雪なんざ見飽きた。俺の故郷は毎年冬になると、大雪だった。寒いのは嫌いだ」
彼のスタンド能力とは、正反対なその意見に、俺は笑いを隠しきれない。
「何がおかしいんだよっ!」
「いや、あんたの口から寒いのは嫌いだ、なんて言葉が出るとは思わなくて」
「馬鹿、スタンドと個人の好みってのは、また別なんだっ!」
ムキになって声を荒げる彼を愛しいと思う。
酒のせいか、いつもは感情がないのかと思われるほど、クールなすました瞳は、わずかに充血し、頬はうっすらと赤かった。
「ギアッチョ…」
俺は、彼の髪(この薄いブラウンの巻き毛を、俺は最高に愛しいと思っている)を軽く撫でた。
「なっ…触ってんなよ!」
が、彼は俺の手を払いのけ、立ち上がった。
「てめーと飲んだらロクな事にならねぇな。全く、突然夜中に人んちにやってきて、なんだってんだ」
「ふふ、ごめん。一人で車走らせてたら、雪が降ってきてさァ。なんか物悲しくなってくるなぁ、そういやアンタの家も近い、と思って…」
馬鹿馬鹿しい、と彼は俺に背を向ける。
「なんだそりゃ、お前は女か。ははっ、俺はもう寝るぜ」
「一緒に寝てくれないのォ?」
甘えるようにそう言ってやると、顔面にクッションが飛んできた。
「クソッ!いい加減にしろよッ!いいか、お前まだ飲むんだったら程々にしとけよ、この前みたいにゲロ吐かれちゃあ、かなわんからな」
「はいはい。こないだのアレは反省しました。今日はあんまり飲み過ぎないようにしますよっと」
「それから…」
ソファーの端にグチャグチャに丸まっているブランケットを彼は目線で示し、寝るんならそれ使えよ、と言う。
「やっぱり、なんだかんだで優しいよね。グラッツェ、ギアッチョ。愛して…」
「馬鹿がッ!」
今度はクッションでなく、酒瓶やグラスが飛んできてもおかしくないので、俺はそこでやめておく。

部屋を出ていった彼が、バタンと乱暴に閉めたドアを見つめながら、俺は思う。
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