小説2

□真夏の夜に、幽霊と。
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「露伴ちゃん、ビール飲むの?」
「まあな」
「大人になったのねー!」
「…君の中じゃ幼児のまんま止まってるのかも知れないが、今じゃ君より年上だからな」
テレビには投稿されたホームビデオが流れる。室内ではしゃぐ子供…走り回る子供を追ってカメラが移動した時、背後の窓に黒い影が映った。
思わず背筋が冷たくなる。…恥ずかしいが、僕はこのテの物が苦手だ。幽霊と会話しながら、おかしな話だが。
「今の、偽物ね」
「えっ?」
「あの影、幽霊でもなんでもないわよ。光の加減で人の形に見えただけ。この霊能力者の先生は、浮遊霊だなんて言ってるけれど」
「分かるのか」
「もちろん。あ、今のも偽物。これは画像を加工したんだわ。なかなか本物なんていないわよ」
なるほど…!そうか。そうだよな。本物がそう簡単にテレビに出てたまるもんか。
そう思えば、恐怖心なんて吹っ飛んだ。今までは、うっかりこんな番組を見てしまった日は、風呂やトイレが少し怖かったんだが…偽物ばかりだと分かったおかげで、その不安もなくなった。
「ふふ。露伴ちゃん。怖いの?」
「バカ言え。怖いワケないさ。偽物なのか。僕はホラーなんて、なんとも思わないタチでね」
いつもの癖で強がり、鈴美に天国はどんな所なんだ、なんて聞きながら時間を過ごした。
きゃあきゃあと楽しそうに語る鈴美は、本当に普通の少女のようで、可愛い。…可愛いだなんて、なかなか言えないけれど。
「犬の鳴き声がしないか?玄関のほう…」
「アーノルドだわ!私を追いかけて来ちゃったのね」
「はは、犬まで盆になったら帰ってくるもんなのか。連れてこいよ」
愛犬の名を呼びながら、鈴美は玄関に出ていった。
しかし面白い。夏の夜に、こっちに帰ってくる幽霊と犬。しばらく鈴美はこっちにいられるみたいだし、明日は康一くんも呼んで美味い物でも…。
ワンワンとアーノルドの鳴き声が響く中、また『お分かりいただけただろうか』だ。
旅行先のホテルで撮った写真だという。ピースサインの三人組の後ろに、物凄い目付きをした暗い顔が見える。
タレント達が騒ぎ、霊能力者が偉そうにコレはとても危険だなんて騒いでいるが、なんて事はない。
たまたま後ろにいた奴が、こんな妙な写り方をしたに違いない。
ビールを飲み干した時、カチャリと扉が開いた。
「やぁ、アーノルド。久しぶりだな。首の傷もすっかり消えてなくなってるじゃないか」
呑気に話しかける僕を尻目に、幽霊少女と幽霊犬の視線はテレビに釘付けだ。
「なんだ?あとで散歩でも連れてってやろうか、アーノルド」
「まぁ、露伴ちゃん」
「うん?」
テレビを凝視しながら、鈴美は呟いた。
「それ、本物よ」


僕の悲鳴でアーノルドがワンワン吠えた。鈴美には笑われた。
あげくに、ビクッとした時にテーブルに脚をぶつけた。
「露伴ちゃんったら、やっぱり怖がりね!」
うるさい。あぁ、やっぱり僕は、幽霊なんて大の苦手なんだ!
こいつら以外!


END
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