小説2

□記念日の、彼ら。
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そのままふて寝してしまっていたようだ。
玄関のチャイムで目を覚ます。
深夜11時半。こんな時間に誰が来たのかと、だるい寝起きの体を引きずってドアを開けた。
「なっ…あんた」
「あ…寝てたのか?すまなかった」
ブチャラティ、だった。
唐突にやってきた彼に少し戸惑いながら、部屋に招き入れる。
「さっき、やっと用が終わったんだ。前に言ってた、娘がチンピラと付き合ってて困るって婆さんの話だ。まぁなんとかなりそうだ」
「おい、さっきも言っただろ?最近ただでさえ忙しいのによ、あんまり色々抱え込むなよ。俺にも言ってくれれば手伝うぞ」
「お前にも仕事があるだろ?大丈夫さ。それに、あの婆さんは息子を若くして亡くしてるからな。俺と息子がかぶるのか、凄く良くしてくれててな」
全く、どこまでお人好しなんだ。一人で背負い込みすぎなんだ、と言おうとした時。
「遅くなったが、日付が変わる前に来れて良かったぜ」
「ん?」
その意味が分からず、少し考えた。
ブチャラティは嬉しそうに俺を見つめている。
「日付?」
今日は俺の誕生日でもないし、もちろんブチャラティのでもない。
何の日だったかとカレンダーに目をやったが、全く検討もつかなかった。
「覚えてないか?レオーネ」
不意に名を呼ばれ、柄にもなく照れくさくなった。
皆の前だと、付き合う前と変わらず苗字で呼ぶが、二人きりの時はレオーネ、だった。
最近ゆっくり二人で過ごす事もなかったので、随分と久しぶりにそう呼ばれた気がした。
「何の日だ?」
「去年の今日…お前に出会ったんじゃないか。俺達が知り合って、一年目の日だ。レオーネ」
「えっ!」
思いもよらない発言に、呆然としてしまう。
去年の…。そうだ、確かに今くらいの、少し肌寒くなった季節ではあったけれど。
「マジか…ブチャ…いや、ブローノ。あんた、覚えててくれたんだな」
「そうだ。去年の今頃のお前は、随分と暗い顔をしてたけど、元気になったじゃないか。俺といる時は、よく笑ってくれるようになった。嬉しいよ、レオーネ」
ブローノは――。
本当に、優しい。何も心配する事はなかったんだと分かった。
彼は、忙しい中こうやって、常に俺の事を想ってくれていた。
「ブローノ。俺は最近あんたが仕事ばかりだから、不安だったんだ。その、体も壊しちまいそうだったし、でも…そんな中でもこうやって俺を大事にしてくれて、スゲー嬉しい」
普段、なかなか本音なんか言えない俺が、珍しく素直に感謝の気持ちを伝える事が出来た。
それくらい、ただただ、嬉しくて。
「これ、帰りに買ってきたんだ。白ワイン。レオーネの好きなやつだ」
そう言って紙袋から取り出したのは、ずっと前に俺が好きだと言った銘柄のもので。
「お前…本当に、ありがとな」
そう言うと彼は、にっこりと笑ってくれた。
彼の笑顔は、何より安心する。
「良かったよ、さっきよぉ…電話繋がらなかったからさ。コレ買ってきてくれたんだな」
「電話!?」
途端、慌てて胸元のポケットに手をやるブローノ。
そして、さらりとこんな事を言うのだ。
「携帯…。家に忘れてきた。よくやるんだよな」
「ちょ、またかよ!?ブローノ…携帯してなきゃ携帯じゃねぇだろうがっ」
ああ、何でこんな変なとこヌケてるんだ…!
「今度から気を付けるよ、レオーネ」
そっと俺の頬に手をやり、キスをくれる。
俺のほうが背が高いから、少し屈む形になるのだけれど。
甘く優しいキス。長い時間、唇を重ねていた。微かな香水の香り。背中に回される腕は、ぎゅっと強く抱き締めてくれる。
大好きだ。
「ブローノ。俺は…あんたといる時が、一番落ち着くな」
「俺もだな、レオーネ」



END
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