小説2

□憧れの人へ。
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ミルクティーを淹れてやると、彼女は喜んだ。
鈴美は紅茶が好きだ。
コーヒーは苦いから飲めないと言う。
子供っぽいな、といつも思う。まだ16歳なのだから、無理はないのだけれど。
そこに違和感を覚える。
初めて会った時から、7年。
僕は今年で27になった。
彼女は。彼女は――少女のままだ。
「露伴ちゃん。それ、見せて?」
「ん。ああ、汚すんじゃないぞ?」
「汚さないわよ」
まだ下書きの原稿を彼女に渡す。
興味深そうにそれを読む鈴美。彼女はいつも来るたびに僕の漫画を読んでくれる。そして、露伴ちゃんの絵すごく好きよ!面白かったわと喜んでくれる。
幼い頃に露伴ちゃんは絵が上手ねと誉められたのを思い出し、少し気恥ずかしくなる。
その後は、康一くんや仗助くんは元気にしているの、だとか、君こそ天国の暮らしってのはどうなんだ、なんてくだらない事を話した。
たまにしか会えない、『あの世』の住人の鈴美。こうやって久しぶりに話せるのは正直、柄にもなく嬉しい。嬉しいのだが、ここ数年は彼女に会うたびに、なんともいえないやるせなさに包まれる。
少女のままの鈴美と、歳を重ねていく僕との間に感じる距離は、年々広がってゆく。
そのくせ、当の本人は露伴ちゃんなどと、僕を子供扱いしているのだ。
「そういえば。今日はいつもより早い時間じゃないか」
「あぁ…」
腕時計に目をやる。9時半。彼女が来るのは、いかにも幽霊らしく深夜なんて事が多かった。
「基本的に丑三つ時じゃないと、こっちには来れないんじゃなかったか?」
「うーん…。その、露伴ちゃん最近、ろくに寝れてないみたいだったから」
「ん?」
「映画とか、凄く忙しかったんでしょ。私、天国から様子見てたから。夜遅くに来ちゃ悪いなって」
「君…」
「心配だったの。無理してるんじゃないかしらって。でも、元気そうで良かったわ」
心配――。まさか、そんな事を気にかけてくれていたなんて。
「露伴ちゃん、漫画の事となると我を忘れちゃうんだから。少し痩せた?ちゃんと食べてる?」
「大丈夫だ。…大丈夫だから、そんな気を使わなくていい」
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