小説2

□ときには、旅行を。
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「なぁギアッチョ」
煙草を灰皿に投げ入れると、少し肌寒そうにコートのポケットに両手を突っ込んで、メローネは話し掛けてくる。
「面白いもんだよな。こうやって、ネアポリスから離れてさぁ…カーニバルとか見てさ。なんか、俺達普通のカップルみたいじゃねぇか?ごく一般の会社員や、学生みたいな」
全く同じ事をこいつも思っていたようだ。俺もそう思うよ、と答えたら、嬉しそうに俺の頭をポンポンと撫でてくれた。
「メローネ、この後どうする?もうホテルに戻るか?」
「そうだな。少し休んでから、また広場に戻ろう。夜になったら広場で祭みたいなのやるんだよ。ステージ設置してただろ?テレビも来るみたいだ。ライブがあるんだよ」
「面白そうだな。それ、行こうぜ!」
ホテルに向かう裏通りを歩きながら、タレントは誰が来るんだろうな、なんて呑気な事を話し合った。
運河だらけのこの本島は、車どころか自転車さえ走らない。商店街を離れると、ひっそりと静まり返っていた。
「あぁ、良かった」
「何がだ?メローネ」
「お前、すげぇ楽しそうにしてるな。ギアッチョのそんな姿が見れるのが、俺は一番嬉しい」
さらっと、そんな台詞を言う男。
気恥ずかしくなって、こいつの背中をバシッと叩いて誤魔化した。
「マジか。…ありがとな」
「ギアッチョ」
「んー?」
「俺達さぁ、そのへんの男女のカップルみたいに結婚して、新婚旅行行って、家庭築いて…って出来ないけどな」
急に真面目な声になってそんな事を言うもんだから、驚いて顔を見上げた。
「でも、これからもずっと一緒にいような。また、こうやってさ、次はミラノだ。休みがかぶったら旅行にも行こうぜ。な?一生お前とこうやってたい」
「…お前」
もう、たまらなくなって俺はメローネの腕にぎゅっと抱き付いた。
「当たり前だろっ!!」
そんな俺を、開いているほうの腕で抱き寄せると、優しいキスをくれた。
瞳を閉じる。
遠くのほうで、鐘の音が聞こえた。


END
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