小説2

□『片目』と『クズ』
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「その辺、適当に座りなよ」
帰宅して、緊張した面持ちのパウロをソファーに座らせると、上着をハンガーにかけてやった。
「歳は?」
「14です」
14。思った通りだ。こうやって明るい所でじっくり見れば、もっと幼くも見えるくらいだ。
コーヒーを入れてやって、軽く食わせてやった。
適当な雑談をした。
数年前にローマからこの街に引っ越してきた事。夜の街をうろつくようになり、ジャーダに拾われた事。だが、ジャーダはなかなか客を紹介してくれず、一人で客を取ろうと頑張ってはいるものの、なかなか上手くいかない、なんてパウロは話した。
話しているうちに、だんだん緊張がほぐれてきたのか彼はよく笑うようになった。
笑うたびに肩にかかるかかからないか、くらいの柔らかそうな髪が揺れた。少したれ目の大きな瞳。暗い所じゃあ分からなかったが、白い肌は赤ん坊みたいに綺麗だった。
しかし、そこに性的な魅力は一切感じる事が出来なかった。俺はペドフィリアじゃない。
仕事の疲れもあって、次第に体が重くなってきた。
明日送って行くと声をかけ、隣に寝かせた。
――こういう仕事をしている子を泊まらせて何もしないってのは逆に失礼にあたりそうだったけど、抱ける気はしなかった。
パウロはじっと体を固くして、なかなか寝付けない様子だった。
俺のほうが先に眠ってしまいそうだった。
「メローネさん。おやすみ」
俺のほうにコロンと寝返りをうって呟く。
「ああ。おやすみ、パウロ」


俺が起きると、パウロはもうリビングの椅子にちょこんと腰かけていた。
「あまり眠れなかったんじゃないのか?」
「ん、大丈夫です」
送っていってやらなきゃ。シャワーを浴びて着替える。そんな俺の様子を彼はじっと見つめていた。
遠慮を知らないガキ特有の眼差し。
「何だ?」
「やっぱり、凄く格好いいなぁと思って」
「…そんなに褒めても何も出ねぇぞ」
「ねえ」
サイドボードの上に飾った写真立てを見るパウロ。
「この人、メローネさんの恋人?」
「ああ、そうだ」
ギアッチョの写真。去年ミラノに行った時に撮ったやつだ。仕事以外でミラノに来たのは初めてだというギアッチョはご機嫌で街中を歩いてた。写真の中の彼は、まるでギャングには見えないような無防備な笑顔を見せていた。
「この人…随分とメローネさんより年下なんじゃない?僕とそう変わらないよね?」
「ははっ!」
思わず笑ってしまう。そうだな、確かにその写真じゃあ高校生みたいだ。
「そう見えても今年で22だよ、その子は」
「えっ」
絶句するパウロの様子がおかしくて仕方がない。
そうか、外見だけなら俺の恋人もこの子も、そう変わらない年頃に見えるのか。
が、ギアッチョは幼く見えるけれど間違いなく大人で、パウロは本当の子供で。
「ほら、送ってくぜ。友達のアパートに連れていきゃ良いんだな?」
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