小説2

□『片目』と『クズ』
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それから3日後。
再度、夜の街でその子に出くわした。
任務を終えた帰り。車で裏通りを通りかかると、黒人の三人組と白人の少年の姿が見えた。
近付くにつれ、少年が三人組に絡まれているのは明らかだった。
正直、疲れていたし関わりたくはなかった。
こんな夜中にうろついている少年――あの子だった。
目があった。今にも泣き出しそうな表情。
恐らく、同じようにこの辺りで屯っているガキ同士での揉め事なんだろう。黒人達も、よく見れば16くらいのガキだ。だが、ガタイは全く違う。このまま少年を放置すれば、ろくな事にならないのは明らかだった。
面倒くさいと思いつつ、車から降りた。
「何してる」
三人組の一人が俺に突っ掛かってきた。
早口の英語でまくし立てているが、このガキがじろじろ俺らを見てきたんだ、なんていう本当にくだらない悪ガキの言い分だった。
少年を連れてその場から離れようとした俺に、その黒人は文句をつけてきたが、あとの二人が制止した。
きっと、俺がパッショーネの人間だって事をこの二人は知っているんだろう。


「あの、あ…ありがとうございます」
「いや、別にいい」
車に乗せた、のはいいものの。
時刻は既に日付が変わる頃だった。家は?と聞いてみたものの、バツの悪そうな顔を見せた。そりゃそうだ。マトモに帰れる家のある子なら、こんな事はしてない――。
「名前は?」
「パウロ」
ありふれた――本当、イタリアじゃあ学校の一クラスに何人もいるような名前だ。本名なのか、適当に思い付いた偽名なのか…。どうでも良かったが。
「こんな時間だし…とりあえず、うちに来ればいい」「すみません」
「いいさ」
「あの」
「ん?」
「お兄さん、メローネさんでしょ?」
俺の事を知ってるのか。おおかた仲間の少年にでも聞いたんだろう。
「ああ。俺は…お前らの間じゃ、今だにそんな名前が知れてるのか」
「ジャーダに聞きました。その…金髪で、凄く格好よくて、『片目』のお兄さんは、メローネさんだって」
「ははっ」
凄く格好よくて…。その言葉は純粋に嬉しいが、遠慮なしに『片目』とぬかしやがったあたり、本当にまだガキなんだと思わせられた。
チラチラと俺の横顔を眺めるパウロ。
まぁ、悪い気はしなかった。
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