パロディ小説

□昆虫ものがたり。ミツバチくんと悪い蜘蛛編
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「甘ーいよ。食べる?」
その頃。
ミツバチ王国の森では、タンポポに腰掛けたギアッチョが、てんとう虫の少年、ジョルノと語り合っていた。
「いえ、いいです。僕はお腹いっぱいですから」
「そう?蜂蜜おいしいよ」
壺に入れた蜂蜜をすくっては、美味しそうに舐めるギアッチョ。ご機嫌そうに、背中の小さな羽はパタパタと揺れている。
「ほら、口の周りいっぱい付いてますよ」
「んー」
べたべたになった口元を、ジョルノに指先で拭ってもらう。二人とも歳は同じなのだが、大人びたジョルノに比べ、ギアッチョは弟のように幼く見えた。
「さて、僕はそろそろ帰ります。ギアッチョも遅くならないうちに帰らなきゃ。女王様が心配しますよ?」
「…だなぁ。もうちょっとしたら帰る。ジョルノ、ばいばいー」
一人残されたギアッチョは、空っぽになった壺を抱えてタンポポから飛び降りた。
スミレが咲いてる辺りにも行こうかな。そう思って、歩きだした所。
「坊や。坊や、こっちに来てくれないか?」
何処かでギアッチョを呼ぶ声が聞こえる。何処だ?ギアッチョが辺りに目をやると、どうやらその声は、シロツメ草の影からしているようだった。
「どうしたんだー?」
草をかきわけ、覗き込む。
そこにしゃがみこんでいたのは、淡い色の金髪を背中まで伸ばした、美しい昆虫だった。褐色の肌と、それとは正反対の白いドレスが目に映えた。
「何、やってるんだぁ…?」
恐る恐る、といった様子でギアッチョは声の主に歩み寄った。
不安だったのは、全く見た事のない昆虫であるうえに、ギアッチョにはその者の性別さえ分からなかった。
色素の薄い大きな瞳に、ふっくらした唇。顔も、声も中性的な、妖しい美しさ。
「羽を奪われてしまって。飛べないし、うまく歩けない。ミツバチの坊や、蝶の国まで送って行ってくれませんか」
「えっ!」
羽のない蝶。そう言われてみれば、細い体も、綺麗な顔立ちも蝶のようだった。
「羽…どうしたんた?立てるかぁ?」
「ありがとう」
ギアッチョが手を貸してやると、よろよろと蝶は立ち上がった。思いの外、背は高い。そこで初めてギアッチョは、この蝶が男であると理解した。
「蝶の国かぁ。送ってあげたいけど遠いよ。俺、早く帰らなきゃ女王様に叱られるんだ」
「すぐそこまで…せめて、森を抜けるくらいまで。一人では、この草の中はうまく歩けなくて」
ギアッチョは、少し考えた。空はまだ明るい。森を抜けるのは、たいした距離じゃない。
弱った蝶を一人にするのは心配だ。
「いいよ。じゃあ一緒に行こうか」
「ああ、優しいなぁ。本当にありがとう、坊や」
「俺はギアッチョだよ」
坊や、と呼ばれて少しくすぐったくなる。ギアッチョはもう15。幼く見えるが、坊や扱いされるのは少々辛い年頃だ。
美しい蝶は、クスッと微笑んだ。
「俺の名前は、ティッツァーノです」
「ティッツァ、ノ…?難しい名前」
「ティッツァ、でいいですよ」
羽をなくし、歩くのに上手くバランスがとれず、ふらつくティッツァーノを支えながらギアッチョは歩き始めた。
「あれ?蝶の国はこっちじゃないぞ」
「ふふ、こっちから行ったほうが近道なんですよ」
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