小説2

□可愛い彼氏
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夏の日の夜。クーラーをガンガンにかけて、ビールを飲みながらテレビを見る。
なんてことない、平凡な時間。暗殺を生業にしている俺にだって、さすがに毎日毎日が殺伐としている訳じゃない。
トーク番組に出てきたのは、最近若い女に人気の俳優だった。
主演した映画がイタリアで大ヒットした事について、たんたんと語る様子を、生ハムをつまみながらぼんやり眺めていた。
肩にかかるくらいの金髪に、青い瞳。背も高そうだ。なるほど、こりゃあモテるんだろうな、なんて考えながら、ある事に気付く。
「ギアッチョ。クーラー寒すぎないか?設定温度何度だよ、これ」
シャワーから出てきたメローネがやってきた。上半身裸のまんま、スウェットのズボン。付き合い始めたばかりの頃は、こいつも家の中じゃあこんな普通の格好なのかと驚いたが、もう慣れた。
「暑がりなんだよ俺は。まぁ別に温度上げてくれてもいいけど」
「風呂上がりなのに寒いくらいだ。あんたこんなんじゃ体壊すぜ」
クーラーのリモコンをいじったあと、後ろからぎゅっと抱き締めてくる。
トリートメントの香り。水滴が俺のうなじにポツポツ落ちた。
風呂上がりのメローネは、本当に色っぽい。濡れた髪。ほんのり赤く染まった肌。腕も肩も腹も、適度に筋肉がついているし、胸板は厚い。
恥ずかしいけれど、いまだに風呂上がりのメローネだけはまじまじと見れない。顔が赤くなっちまって、からかわれるから。
「お前せっかく風呂入ったのに、俺の汗くさいのうつるぞ?汗ばんでるだろ?」
「ギアッチョの香りなら大歓迎。ディ・モールトそそる」
「…そりゃどうも」
「ビール、一口もらっていいか?」
「ん」
缶ビールを一口…というか、結構飲みやがったな。喉仏が上下するのが、格好よかった。
「なぁメローネ」
「うん?」
「この俳優さぁ、格好いいよな」
メローネが、チラリとテレビに目をやった。映画のワンシーンが紹介されていた。女優を口説くシーンだ。笑っちまうくらい、くさい台詞。
「男前だよなー」
「ああ、そうだな。最近よくCMにも…」
「今まであんまり思わなかったけど、スゲー格好いいな」
「なんだ」
眉間に皺を寄せ、大袈裟に拗ねたふりをして冗談めかして聞いてくる。
「タイプなのか?」
「あ、タイプっていうかよぉ」
ニヤニヤしながら俺の髪をぐしゃぐしゃと弄るメローネに言ってやる。
「お前に似てると思うんだけど」
途端、メローネは目を見開いて表情を固まらせたかと思うと、みるみるうちに赤くなる。
「…グラッツェ」
俺の髪から手を離すと、うつむき加減で呟いた。
可愛い。こいつ、普段気取ってる癖に、たまに褒めてやるとこうなるんだ。
女に誉められても、しれっとした顔で答える癖に。俺が褒めると真っ赤になるんだ。
好きだ。大好きだ。
「晩飯作ってくるわ」
俺と目をろくに合わせないまま、キッチンに消えちまった。
勇気を出して、「お前のほうが格好いいけどな」と言ってみたけれど、聞こえてなかったみたいだ。…バカ。
晩飯は、俺の好物の魚のパスタだった。


END

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