小説2

□真夏の夜に、幽霊と。
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「…ちゃん、露伴ちゃん」
「ん」
「この女優さん、私が生きてた頃はまだ20歳くらいだったのよ。おばさんになったのねぇ」
「あぁ、そういや昔はアイドル歌手だったらしいな…」
リビングのソファーでテレビを見ながら、鈴美が話しかけてきた。
クイズ番組が放送されているが、原稿に夢中の僕はそれどころではない。
この暑い中、仕事部屋のクーラーが壊れちまった。…なので、リビングで仕事をする事にしたのだが。
突然遊びにやってきた、鈴美。もうすぐ原稿は終わるから、テレビでも見て待ってろよと声をかけた。
気が散ると悪いわね?なんて気を使ってくれたが、構わない。僕は原稿に集中してしまえば、隣でテレビを見られようが、爆音で音楽を聞かれようが、全くそんなものは気にならない…いや、むしろ聞こえなくなるタチだ。
「天国のテレビも好きだけど、こっちのも面白いわねぇ」
「…天国にもテレビがあるのか」
いくら気にならないとはいえ、他の奴が原稿中に突然やってこようもんなら、追い返してやる僕だが。
…彼女は別だ。彼女は、毎年この時期しか会えないのだ。
幽霊少女の、鈴美。お盆しかこっちに来れない。あの世にもルールがあるらしい。
僕は彼女にだけは、けして強く出れなかった。
しばらくして、やっと一段落ついた頃。
「お待たせ、鈴美。あとは明日…」
テレビの画面に映っていたのは、恨めしそうな顔で睨み付ける、黒髪の女。女性タレントのわざとらしい悲鳴がうるさい。
「…なんだ、いつの間にチャンネルを変えたんだ」
「こういう番組って、今でも夏になればやってるものなのね」
「幽霊が心霊番組を見てどうするんだ」
「うーん、それはまた別よぉ。自分が幽霊でも、ホラーって面白いわぁ。昔から好きだったの」
「全く理解できないな」
キッチンへ向かい、冷たい飲み物を探す…リビングからはまた、お決まりの『お分かりいただけただろうか』が聞こえてくる。
幽霊が心霊番組だなんて、ギャグじゃないか…。そんな事を考えながら、冷蔵庫のビールを取り出した。鈴美のぶんも、と思ったが、あの子は味覚まで
少女のまんま止まっちまってる。ペットボトルのコーラをコップに入れた。
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