小説2

□暗殺者と、不幸な子供と。
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小雨が降るフィレンツェ。ドゥォーモのある賑やかな中心部から少し離れ裏通りに入る。
俺が煙草を切らしたもんだから、煙草屋を探してた…にも関わらず。
あいにくの日曜日。ほとんどの煙草屋が閉まってた。メローネが、確かこのへんに自販機があったはず、なんて言ったたけど、この国に煙草の自販機は少ない。
薄汚い路地に、同じくらいきたねぇ浮浪者どもがしゃがみこんでいるのが鬱陶しかった。
「もういい。ホテルの周辺で探そうぜ。土砂降りにならないうちに行こう」
「そうするか?」
どんよりとした空の下。サングラスのせいでメローネの表情は上手く読めなかったけれど、いつもより険しかった。
数時間前に、ターゲットを殺してきたばかり。相手はスタンド使いとはいえ、老いた幹部だった。メローネ。なんの躊躇いもなく殺した。ベイビィ・フェイスで細切れ。
ジジイが恐怖に満ちた目で命乞いした時も、メローネの表情は変わらなかった。
「今度、仕事じゃなくプライベートで来たいな。フィレンツェ、結構安くてお洒落な服屋なんかも多いんだ」
「…美味いホットチョコレートで有名な店もあるんだ」
「お前、相変わらず可愛いな。なんなら今から寄っていくか?どこにあるんだ?」
メローネ。組織では、冷酷でぶっ飛んでる男だって言われてる。確かに、そうかも知れない。否定は出来ない。
でも。
それだけか?冷酷なだけ、の男だろうか?


例のホットチョコレートの店。流行っているもんだから、店内はごった返していた。テイクアウトで買ってくるからと、メローネを待たせて店内に入る。
外国からの観光客でいっぱいだ。そこかしこから英語にドイツ語、日本語なんかが聞こえてくる。
日本人の女達が店の外をチラチラ眺めながらはしゃいでいるもんだから、何かと思えばメローネを見ているのだった。よくある事だ。日本人女に限らない。メローネは、女の目を引き寄せる。
「おい、買ってきたぜ」
とうの本人は、店内に背を向けて再び路地を見つめてた。なんだってんだ?
「メローネ」
どきり、とさせられる。浮浪児だ。破れた洋服に、穴の開いた靴。半ズボンからのぞく細い足は、栄養失調で湿疹が出来ていた。
「ん…」
紙カップのホットチョコレートを受け取ると、メローネはガキに一言二言話しかけた。
ガキがにっこり微笑む。
「飲むか?」
メローネはガキに、カップを手渡した。小さな手は、寒さに震えていた。
「行こうか、ギアッチョ。」


「せっかく買ってきてもらったのに、あげちまって悪かったな」
「ん。いいよ。あれ、お前…」
俺を見つめるメローネの、青い瞳。いつの間にかサングラスを外していた。
「ああ、あのガキがな、お兄さんカッコいいサングラスだね、なんて言うもんだから。コレもあげたんだ」
「えっ、マジか。それブランド物だったんじゃないのかよ?」
「別にいいさ。売ったら小遣いくらいにはなるんじゃねえか?って一応教えてやったけど。ははっ」
メローネの、普段サングラスやマスクで頑なに隠している右目が見えた。ガキの頃に母親に殴られて失明した右目。見えない目で、俺を見る。
酷く、哀しげな眼差しに見えた。
「寒いな。ほら、風邪ひくなよ」
「ああ。俺のホットチョコレート…飲むか?ほら」
美味いな!と笑って俺の頭をぽんぽんと撫でるメローネは、もういつもの優しい目をしていた。


END

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