小説2

□歳の差カップルの、とある休日。
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「よくそんな甘ったるいモンが飲めるな」
街中の、とあるバールのオープンテラス。ホットチョコレートを飲む俺を、こいつ…プロシュートが茶化してくる。
「うるせぇな。好きなんだよ」
ふふん、と鼻で笑ったプロシュートは元通り、新聞に目を落とした。
きっと内心じゃあガキだな、なんて思ってるんだろう。
付き合い始めたばかり…だけど、初々しさなんてない。以前と変わらない接し方。いつもこうやって俺をからかってくるんだ。嫌じゃない、けど。
「この後、服を買いに行くんだったな?」
「おう。コート欲しいんだよ」
道を行き交う女どもが、チラチラとプロシュートを見る。無理もない。
そこいらの俳優なんかより男前。細身の長身に、いつも高いスーツでキメてる。長い睫毛の大きな瞳…女顔だけど振る舞いは男っぽくて。そのギャップが色っぽいと思う。
「あの姉ちゃん、あんたを見てるぜ」
「あー?ほっておけばいい、そんなの」
慣れた事だ、と言わんばかりの様子の彼だったが、俺の顔を見ると面白そうに笑った。
「妬いてんのか?」
「ば、馬鹿!違う…」
本当に、そんなつもりで言った訳じゃない。そもそもプロシュートがこのテの女なんて一切眼中にないなんて事は、分かり切っていたのだし。
それでも彼は、顔を真っ赤にして否定する俺を見て楽しそうだった。
「あ、そういや」
「ん?」
無理矢理に、話を反らす。
携帯を取り出し、プロシュートに見せた。
「ほら、この前のあんたのメール。画像ついてなかったぜ?ホルマジオの猫が子猫産んだって言うからよぉ、写メ送ってくれよって言ったのに」
「ん?写メついてなかったか?」
そう言う彼は自分の携帯を取り出すと、子猫の写真を見せてくれた。淡い茶色の、ふわふわの子猫。綺麗な青い目。
「うわ、可愛いなー…。てか5匹も産んだのか。どうすんだよホルマジオ…やべぇ、マジ可愛い」
「可愛いだろう。コイツ、この端にいる奴な。コイツだけ他のより目付きが悪い」
「あ、本当だ。おもしれぇ!でもなんか、この目付きが逆に可愛いわ。ははっ」
「お前に似てないか」
「はっ?」
馬鹿みたいに口を開けたまんま戸惑う俺を見て、彼はニヤリとしながら画像の猫を指差す。
「見た瞬間によぉ、お前に似てるって思ったんだ」
「ば、馬鹿!そんなワケねえ!似てねぇし!」
男の俺を子猫みたいだなんて、ありえねえ!いくらイタリア男でもそれはないだろうと突っ込んでやったけど、彼はよっぽどおかしいのか爆笑していた。
まったく、どうかしてる。
「その画像な、送り方がよぉ、よく分からねぇんだよ」
「え」
「メールに画像つけるのって、どうやるんだ?」
「マジかよ。お前いつの時代の人間だよ」
「うるせえ。携帯なんかな、電話が出来ればじゅうぶんなんだ」
キザなことを言ったかと思えば、変なトコはオヤジくさいし。本当にコイツは!なんて思ったけど、そんな一面って可愛いな、なんて思っちまったんだから、惚れたら負けだよなぁ。
「じゃあもしかしてアレか?お前いつもメールそっけないけどよぉー」
「そっけない…。そうか。絵文字ってどうやって出すんだ?」
「ああー…おいおい、マジかよ。いつも短文で絵文字も何もねえから、最初なにか怒ってんのかなって恐かったんだぜ」
メールの画面をいじっていた彼だったが、結局絵文字、顔文字の入力方法は分からなかったんだろう。すぐに携帯をパタンと閉じるとポケットにしまった。
「あとで教えてやるよ。簡単だよ、メールなんてさ」
「おう。よし、そろそろ行くか?」
店を出て、颯爽と歩く彼の隣に並ぶ。
俺の羽織ってるパーカーをちらりと眺め、
「高校生みたいな格好だな。俺がいいのを選んでやる」
なんて言いだす。
「あんたが選んだら、やたら高くて派手なヤツになる」
「いいだろ。買ってやるよ。気にすんな」
いや悪いよ、と気を使う俺の頭をグシャグシャと撫でる。
今日のプロシュートは、ご機嫌みたいだ。
彼のセンス。とても良い。なら言葉に甘えて、今日は服を選んでもらおう。
「じゃあさ、あんた好みの選んでくれよ。カッコいいのな!」
そう言って彼の顔を見上げると、頭をポンポンと撫でられた。
ふわ、と漂うほのかに苦い香水の香り。昔はきつくて苦手だったけど、今じゃ大好き。最初はおっかない野郎だな、なんて思ってたけど、やたらと俺を構ってくれて、付き合いはじめて…日に日に、彼が大好きになっていく。
「なぁ、プロシュート」
「なんだ?」
「明日も休みだしよ。今日はあんたんち行ってもいい?」
そう言うと、プロシュートは目を細めて笑う。改めて、男前だなぁなんて思った。
「もちろんだ。今度合鍵やるよ」
嬉しくなった俺も、つられて微笑んだ。
人前じゃあとても言えないけど、家についたらたくさん、好きだって伝えようと思った。


END

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